日本が第二次世界大戦によって「財政破綻」した事実を改めて確認しておきたい。
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戦時中すでに対外デフォルト 昭和初期において、わが国の国債の約4分の1は外国債(利率は内国債よりかなり高め)が占めていたが、戦時中の1942(昭和17)年から外国債の利払いは停止された。わが国は対外デフォルト(債務不履行)状態に陥り、その状態は1952年まで続いた。国債の構成も、終戦の時点では、金利水準を低く抑えた内国債が残高の99%を占め、そのほとんどを日本銀行と大蔵省預金部(政府)が引き受ける状況だった。
https://diamond.jp/articles/-/40167◾️
終戦直後の国債利払い費は政府予算の48% 終戦直後の45年10月の大蔵大臣閣議報告によると、45年度の歳出予算額289億円に対し、46年度は戦争経費の減少などにより152億円。これに対し国債利払い費は73億円(国債費比率48%)で、一般歳出は79億円。政府債務は国債残高約1400億円を含めて約2000億円(GNP<国民総生産>は44年で745億円前後)。このほか、予想される国庫負担として、連合軍駐屯費や戦地での臨時軍事費の借入金処理、軍需企業への補償金支払い、戦時中の政府補償債務などが少なくとも1300億円超と予想された。これらを国債や借入金で賄えば利子だけで100億円を超えると予想され、
「我が国財政は全く破局的状態にある」と結論された。
https://www.mof.go.jp/pri/research/seminar/fy2022/lm20220519.pdf
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戦時補償債務900億円は事実上デフォルト 結局、軍需企業などに対する戦時補償債務約900億円は、債務と同額の特別税を債権者に課税する形で帳消しに。これは形式的にはデフォルトではないが、事実上の債務不履行、踏み倒しだ。このほか、預金封鎖と新円切り替えによって国民の現預貯金を金融機関に吸い上げさせた上で財産税課税を断行。富裕層から中間層を中心に個人財産の25~90%という累進度の高い税率により、預貯金や株式、債券、不動産などを中心に計約400億円の国民資産が収奪された。
こうして日本政府は、国会の議決は経ているとはいえ徴税権を暴力的に行使し、形だけはデフォルトを回避した。このことを指して「国債が国内保有の場合はデフォルト(財政破綻)しない」という論者がいまだに散見されるが、このように戦後日本財政の歴史を点検すれば分かるように、徴税権を強権発動して借金を事実上踏み倒したり、国民資産を収奪したりすれば、理論上は形式的なデフォルトを回避できる、というだけの話なのだ。これは紛れもなく事実上の財政破綻である。
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国際会計基準では「ハイパーインフレ」 しかし、実際には国民は資産を政府に収奪されただけでは済まなかった。闇市相場が公定価格の最大37倍に達し、それが年率何倍ものペース上がっていく悪性インフレが1949年の経済安定策であるドッジ・ラインまで続いた。戦後わずか数年間で物価は数百倍に上がっていったのだ。
https://news.yahoo.co.jp/articles/95cdac762921962fb528b730d80f56863e7f1846?page=1


ちなみに、戦後の悪性インフレが「ハイパーインフレ」と呼べるかどうかはハイパーインフレの定義によるが、いずれにしてもそれは本質的な議論ではない。日本の戦後のインフレは確かに韓国や台湾ほどではなかったものの、それでも戦中から数年間で数百倍に上昇した苛烈なインフレだったことには違いはない。「ハイパーインフレ」の定義は学術的にも幅があるが、国際会計基準では3年間で累積100%(2倍)以上が「ハイパーインフレ」と定義されている。この基準なら戦後日本のインフレは間違いなく「ハイパーインフレ」と言える。
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/ハイパーインフレーション
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高インフレと高成長で「消滅」した政府債務 戦時中は物資統制や価格統制で終戦までにインフレ率は3倍程度に人為的に抑えられていたため、それが終戦で自由市場(闇市)で一気に吹き出した面もあるが、49年まで高いインフレ率が続いたのは、空襲による設備破壊などにより戦時のピークの3割程度に落ち込んでしまった工業生産や都市インフラなどの復興需要が大きく、復興を急いで資金供給を優先した政策の影響が大きい。莫大な復興需要に応えるため、引き続き大量の国債発行や日銀借入等による政策融資が戦後も続いたが、結果的に国債や借入金残高を上回る高インフレと高成長が続いたことで、GNP比政府債務残高は戦後わずか数年で急激に縮小していった。
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本日のBroomberg記事。2008年の金融危機を予言したエコノミスト、ヌリエル・ルービニ氏は、2022年末から米国をはじめ世界的に「長く、厄介な」リセッション(景気後退)に突入し、23年いっぱい続く恐れがあると予想。株価は最大40%の急激な調整局面を迎えるとの見通しを示した。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2022-09-20/RIIGOGT1UM0W01◾️
死を迎えるゾンビ国とは? 「Dr. Doom(破滅博士)」の異名を取るルービニ氏は、米国企業と米政府の高い債務比率に注目すべきだと指摘。金利上昇と債務返済コスト増加に伴い「ゾンビ状態となった多くの機関や家庭、企業、銀行、シャドーバンク、さらには国が死を迎えることになる」と(「死を迎えるゾンビ国」とは、もしかして……)。
そのほか、各論は以下の通り。
▽ハードランディングを起こさずに2%のインフレ率を達成するのは、米金融当局にとって「ミッション・インポッシブル」。
▽年内の米利上げ幅は、今週のFOMC会合で75bp、11月と12月の会合で50bpずつで、FF金利誘導目標レンジは年末までに4~4.25%と予想。ただ、賃金とサービスセクターの根強いインフレにより、FOMCは一段の利上げに「動かざるを得ないだろう」とし、来年は5%に向かう。
→ここ、かなり重要。つまり、今年末から米国と世界が「長く厄介な」リセッションに向かうとしてもスタグフレーションとなり、利上げは止まらないとの見方。だとすればドル高・円安も止まらない可能性が高い。▽ 世界的にリセッションに陥った場合でも、財政面での刺激策は期待できない。政府は過剰な債務を抱えており「財政による景気刺激の手段が尽きつつある」
(グラフは世界全体の官民債務比率がGDP比256%と、過去50年で最大規模に膨張)

▽ 1970年代のようなスタグフレーションと、金融危機時のような巨額の債務過剰に陥ると予想。「短く浅いリセッションにはならない。厳しく長く、そして厄介なものになるだろう」。
齊藤誠・名古屋大学教授の分析によると、日米の5年物物価連動国債から計算した実質金利差と、物価格差を加味した実質為替レートから計算した円ドルの「長期実質レート」は、2008~19年の1㌦=181円から、21年3月以降は同270円に低下している。つまり、対ドルの円の実力は1㌦=270円程度にまで低下しているという意味である。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD293ZO0Z20C22A8000000/
さらには、国際決済銀行(BIS)が毎月公表している各通貨の相対的な実力を示す「実質実効為替レート」で円は、変動相場制移行(1973年2月)前の71年8月以来、実に51年ぶりの低水準となっている。つまり、1㌦=360円時代と同水準ということだ。
https://www.nhk.or.jp/shutoken/newsup/20220908a.html
要するに円の実力は、現在の1㌦=140円台を遥かに超える円安水準となっており、短期的な調整はあっても、長期的には円安がさらに進むのが自然だということになる。
この食品インフレの最中、マクドナルドは主要メニューの殆どの価格を据え置いていて、少し驚いた。
3月にハンバーガー、チキンクリスプ、てりやきマック、フィレオフィッシュを10~20円値上げしたが、6月には半月ほどの期間限定ながら主力の「ビッグマックセット」を通常価格の690円から550円に値下げまでしている。ビッグマック単品は今のところ390円を維持しているのだ。
ハンバーガーの原材料は牛肉にしてもパン(小麦粉)にしても輸入なので、普通に考えれば円安亢進もあり原材料費は相当上がっているはずだが、おそらく大量仕入れや長期契約のためタイムラグがあり、まだ商品価格には反映せずに済んでいるのだとみられる。とはいえ、価格転嫁されるのは時間の問題であろう。
https://www.ssnp.co.jp/foodservice/221060/https://www.j-cast.com/trend/amp/2022/06/03438703.html
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日本のビッグマックは米国の半額 ついでに直近のビッグマック指数(BMI)を調べてみて、もう一度驚いた。7月時点(1㌦=137.87円)で日本は−45、つまり米国より45%安く、データがある54カ国中41位。下から14番目に安いということだ。ちなみにBMI世界トップのスイスは925円と日本の2.4倍の値段だ。
https://ecodb.net/ranking/bigmac_index.html 2008年9月のリーマン・ショック以前はスイス・フランと共に円は高通貨国の世界トップ2で、金融危機や不況時には逃避先として買われる「安全資産」だったのだが、円は今では見る影もない。
欧米主要国はもちろん、中国、韓国、タイ、メキシコ、パキスタン、ベトナムより安いんです。今はこの時点よりさらに円安が進んでいるので、もっと低下しているはずだ。ここまでくると、もはや「安いニッポン」を喜んではいられないでしょう。
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「悪い円安」「悪いインフレ」 なぜなら、いくら国内の消費者物価が安くても、平均賃金が下がっていて可処分所得が減っているので、実質価格は上がっているからだ。これがいわゆる「デフレスパイラル」。今更言うまでもなく、需要増加によってマイルドに物価が上がり、それ以上に平均賃金が上がっていくのが望ましい経済の姿である。
物価が安くて上がらないことは消費者の立場からだけ考えればよいことのように思えるが、生産者・サービス提供者から見れば売り上げが増えず、従って労働者の賃金も上がらない。この構造が長く続けば経済全体が縮小均衡に陥る。これが日本の長年にわたるデフレ(持続的な物価下落)問題である。
今回のエネルギーや食品のインフレは全て国内需給とは無関係な海外要因であり、円安も加わり輸入物価が急騰していることが原因だ。従って、輸入関連企業にとっては燃料費や食材コストが上がるだけで売上増には繋がらない(コストプッシュインフレ)。値上げすれば売り上げが減る恐れがあるが、かといって値上げしなければ利益が出ず、赤字となる可能性もある。「進むも地獄、留まるも地獄」の状況。従って労働者の賃金にはむしろ下押し圧力となる。「悪い円安」「悪いインフレ」と言われる所以です。
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輸出関連企業への追い風も限定的 もちろん円安は輸出関連企業にとっては追い風だが、多くの輸出関連企業は長年の円高によって既に生産現場の多くを海外に移転しているため、円安メリットはかつてほど享受できない。輸出が多い国内部品メーカーや化学メーカーなどはドル建て輸出が多いため円ベースの売上高は増えるだろうが、一方で原材料価格の急騰によって利益はかなり相殺される。
つまり、今回のインフレや円安による勝者は日本にはいないということだ。
今年1月のダボス会議で話題になったHarvard’s Growth Lab(米ハーバード大成長研究所)発表のEconomic Complexity Ranking(経済複雑性ランキング)。日本は過去30年ほどずっと世界首位を独走とか。経済複雑性とは産業構造の多様性と厚みとのこと。輸出データから割り出している。2017年の最新版では2位はスイス、3位は韓国、4位ドイツ、5位シンガポール、6位チェコ、7位オーストリア、8位フィンランド、9位スウェーデン、10位ハンガリー。
なのに、なぜ日本は断トツで経済成長率が低いのか、という疑問が浮かぶ。スイスの一人当たりGDPは常に世界トップクラスだ。
その訳はこういうことではないか。日本は何でも自前で作ってしまい、経済の自立性が高いのかもしれないが、かといって世界的な経済危機に強く経済の安定性が高いわけではない。バブル崩壊、アジア通貨危機、リーマン・ショックなどの過去の経済危機を振り返れば、そのことは明らかだ。裏を返せば、日本は弱小の中小零細企業の数が驚くほど多く、存続至上主義なので儲からなくてもよく、特に危機時には国や地方政府が信用保証を使った公的融資で必死に支えようとする。だから世界的にみれば日本は倒産が少なく、廃業率も低い。その結果、産業構造が変わらず「選択と集中」がうまくいかない。ゾンビ企業が死なず、利益の出ない製造・輸出が続いている。
経済複雑性世界首位とは、このことの裏返しではないのかと思えてくる。
http://www.world-economic-review.jp/impact/article1600.htmlhttps://ampmedia.jp/2020/01/10/economy-complex-ranking/https://note.com/kaoimada/n/n7f7c77211e1f