火山国である日本の地熱資源量(2347万kW)は米国(3000万kW)、インドネシア(2779万kW)に次ぐ世界第3位だ。にもかかわらず、地熱発電の設備能力は米国、インドネシアが資源量順位と同じ1位、2位なのに対し、日本は、資源量が4分の1のアイスランド(580万kW)や7分の1のイタリア(327万kW)も下回る10位にとどまっている。人口37万人のアイスランドは電力供給の7割以上を地熱発電で賄っており、安価な電力を国民に供給している。人口規模が全く違うアイスランドとは単純に比較できないが、日本にとっては数少ない貴重な国産の再エネ資源なのに、なぜ開発が進まないのだろうか?
https://geothermal.jogmec.go.jp/information/plant_foreign/https://www.globalnote.jp/post-3238.html 結論を一言で言えば、原因は「温泉利権」との利害衝突である。日本は火山性熱源に温泉利権が張り巡らされ、温泉の枯渇を懸念する温泉旅館組合や地元行政の反対が強いため、地熱発電開発が思うように進まない。地熱発電の熱源は地下深い場所から汲み上げることが多いため、実際に温泉に影響があるかどうかはやってみないとわからないのだそうだ。
https://courrier.jp/cj/325542/?utm_source=yahoonews&utm_medium=related&utm_campaign=325542&utm_content=nippon 日本の温泉地は全国約3000、源泉は2万7000もあると言われ、古くは約6000年前の縄文遺跡からも温泉の痕跡が見つかっており、古事記や日本書紀にも温泉に関する記述がある。温泉は日本古来の文化であり、今でも重要な観光資源だ。豊富な水資源と火山性熱源をともに有する結果、自然に湧き出る温泉が多く、それを頼りに旅館を経営する人々にとって、温泉資源の枯渇はまさに死活問題だろう。
温泉の出る他国はなぜこうした問題があまり聞かれないのだろうか。
米国では中西部のロッキー山脈の中に温泉地が点在する。私も留学生だった時に、米アーカンソー州の温泉リゾート地、ホットスプリングス(都市名が「温泉」!)を訪れる機会があり、公共の屋外温泉プールに入ったが、米国の「温泉」とはまさにこうした温泉を使った温水プールのことだ。せいぜいスパリゾート施設である。プールと言っても普通のプールのようにバシャバシャ泳ぐ人はさすがにおらず、利用者は高齢者ばかり。全員水着を着て、当然男女混浴で、ぬるめの温泉プールにゆったりと浸かっている。
元々は先住民のネイティブ・アメリカンが湯治に利用していたらしいが、南北戦争の後にはここに陸軍・海軍病院が開設されたという。要は傷痍軍人の療養施設だ。19世紀後半以降、この地にはギャングが住み着き、市政も腐敗して違法カジノや売春がはびこったというが、第二次世界大戦後には浄化運動が起こり、1960年代には一掃された。湯治場として栄枯盛衰を繰り返しながらも、米国の温泉リゾートは基本的には怪我人や病人の療養や高齢者の保養という意味合いが大きく、入浴の習慣がそもそもない一般の人々のリゾートとしては定着していない。
イタリアにも古代ローマ時代から温泉が普及していたことは、映画にもなった『テルマエ・ロマエ』でも描かれたが、やはり日本のような入浴文化はない。ただ、温泉に効能があることは早くから知られ、米国と同じように医療療養施設のプールやスパはあり、医療保険の対象にもなっているという。無料の露天温泉も多いとか。誰も施設開発をせず、自然に湧き出ている沼や川などが多いようだ。
https://www.adomani-italia.com/blog/column/onsen-1/ そもそも日常的に入浴したり、温泉をこれほどよく利用する民族は世界でも日本人だけらしい。これほど多くの温泉地や温泉旅館があり、病気でもない一般の人々がこれほど温泉旅行を楽しんでいる民族は日本人以外にはないということだ。地熱発電設備が入り込む余地がないほど、日本人は地熱資源を温泉としてフル活用しているということでもある。温泉は健康にもよいので守るべき文化だろう。
温泉が枯渇しない範囲で科学的に熱資源を管理しながら、地熱発電利用と共存する方法はないものかと思う。
スポンサーサイト
岸田文雄政権は「異次元の少子化対策」として子ども予算倍増を打ち出したが、なぜか移民受け入れ倍増や公的教育費の倍増には踏み込んでいないのは極めて片手落ちだと思っている。
少子化対策がなぜ必要かといえば、人口ピラミッドの逆三角形化による人口オーナス(従属人口増加と生産年齢人口減少に伴う社会保障負担の増加と経済成長率の低下)や人口減少を止める、ないしは緩和し、経済や社会保障の破綻を防ぐためだろう。
◾️
フランス、スウェーデンでも再び低下する出生率 ただし結局、少子化対策に国家予算を注ぎ込んで成功したとされるフランスでも、合計特殊出生率はボトムだった1993~94年の1.73から一時は人口維持のために必要な2を上回ったものの、2020年には1.83まで再び低下している。同様にスウェーデンの合計特殊出生率もボトムだった98~99年の1.50から、少子化対策が奏功して2010年には1.98まで回復したが、20年にはやはり1.66まで低下している。結局、両国とも人口や労働力人口の増加を維持するために、より重要な役割を果たしているのは移民なのだ。
https://ecodb.net/exec/trans_country.php?type=WB&d=TFRTIN&c1=FR&c2=JPhttps://ecodb.net/exec/trans_country.php?type=WB&d=TFRTIN&c1=SE&c2=JP

恐らく移民の本格的な受け入れは自民党内の保守派の抵抗が強く、世論の抵抗も強いとみて、岸田首相は議論しようとしないのだろう。少子化対策が不要だとは思わないが、もし効果が出たとしても労働力人口の増加という効果が出るのは20年以上先の話。それまでは子供という従属人口が増え、社会の負担はむしろ増える。移民の大幅増なしに当面の労働力人口や総人口を増加に転じさせることは無理だろう。
◾️
大学など高等教育費負担は重いまま また、「異次元の少子化対策」と言いながら、子供に最もお金がかかる大学や専門学校の学費に手をつけようとしていないのは、いかにも中途半端だ。日本も今や4年制大学への進学率は5割を超え、短大、高専、専門学校を加えれば8割を超えている。大陸欧州の大学や専門学校は自国民なら基本的に学費は無料だ。
米国の大学の学費は世界でも突出して高いが、それでも州立大学で州内の学生なら年1万㌦程度なので、日本の私立文系と変わらない。物価や平均収入の差を考えれば、実質的には日本の私立より安いだろう。何より米国の大学は給付型奨学金が日本とは桁違いに多く、親の収入が少ないほど、成績が優秀なほど奨学金を得やすい。また私立大学は国際競争力が世界トップレベルのため、学費が高くても世界中から王族や富裕層の子弟、国費・社費留学生が集まる。OBの寄付金も桁違いに多く、公的な研究費助成も日本よりはるかに多いため、経営的にも成立する。米国の私立大学事情は日本には全く参考にならない。
また日本の大学は学費もさることながら、有力校が大都市や都心部に集中し過ぎており、学生寮も少ないため、都心の大学に通う子供の親は仕送りが大変になる。欧米の大学は郊外の広大な敷地に立地し、敷地内に十分な学生寮を完備し、全寮制の大学も多い。日本の大学はこうした基本的なインフラも貧弱で、子供の生活費でも余計にお金がかかる。多額の貸与型奨学金(教育ローン)を借り入れ、アルバイトを掛け持ちしないと大学に通えない学生が大半だ。親も子も経済負担が重過ぎる。欧米の大学は学生の落第率が高いため、アルバイトなどしている余裕はなく、必死に勉強する。24時間オープンの学内図書館も珍しくない。日本の大学は入るまでは大変だが、入ってしまえば卒業は簡単。実際、9割方は卒業できる。国際機関が公表している大学の国際ランキングでも日本の大学の評価は低下し続けている。
◾️
日本政府はなぜ教育に金を使わない? 少子化対策に通じる親の経済負担の面でも、国力の源となる教育機能の面でも、日本の大学は抜本的な改革が求められているはずなのに、なぜか政策メニューに上がっているのは理系シフトやIT対応程度にとどまっている。ブラック職場化している公立中高の劣化も著しく、それも私立中高や塾通いなどで親の経済負担を増やす要因となっている。要するに日本は豊かになった後も公教育の充実をケチって受験産業などの手に委ねてしまい、ビジネス化してしまったのだ。教育や医療、社会保障などの国家的社会インフラは市場原理に委ねてはいけない。公教育の再建は急務だ。
「資源も何もない国の最重要政策は教育。人材こそ宝」という明治期以来の「国家百年の計」に立ち返るなら、「高等教育は自己負担」という発展途上国の教育体制のままここまで来てしまったのは、もしかしたら日本の国力衰退の最大の原因かもしれない。少子化や社会階層の固定化が起こっているのも子供の教育費負担が重いことが大きな要因なのは明らかだ。なぜ国家リソースをもっと教育に注がないのか。そのために増税が必要ならやればいいではないか。北欧諸国を見ればわかるように、国民負担や社会的再分配の大小と経済成長率の間には相関関係などないのだから。北欧諸国は国民負担率は高いが、教育力・学力は世界屈指で、それが国家指導層の優秀さや企業の国際競争力、ユニコーン輩出にも繋がっている。資本主義や市場原理は放っておけば「勝者総取り」になるので、それだけで比較的うまく行くのは米国だけだろう。その米国でさえ国民の租税負担率は日本より高い。
「週刊現代らしい」と言ってしまえばそれまでですが、増税賛成論を「財務省のポチ」とレッテル張りしてディスる、この手の“庶民感情” に訴える床屋談義レベルの政治批判からはいい加減卒業しませんか?
https://gendai.media/articles/-/106722?page=1&imp=0 日本は先制国家でもないのに、大衆の不満を煽るだけの左翼的プロパガンダを「売れる」という理由で書き散らすイエロージャーナリズムは百害あって一利(一理)なしでしょう。
◾️
先進国最低の日本の租税負担率 国民負担率が国際的にもまだ低く、特に租税負担率が先進国最低の日本には増税余地があり、世界一の債務の大きさを考えれば増税不可避の結論は明白でしょう。それを言うと「財務省のポチ」と言うのは、日米同盟支持を「アメリカのポチ」「政府の犬」とディスる全共闘の学生運動レベルではないか。中韓の「反日無罪」と同じレベルの左翼イデオロギーや「弱者利権」のポジション・トークですよ。消費税率を20%以上にまで増税してきた欧州諸国の政府・国民はみな「財務省のポチ」ですか?




◾️
増税反対なら歳出削減の具体策を示せ 増税反対なら(MMTや国債発行無限論を別にすれば)財政破綻を防ぐには歳出削減しかないが、どこをどう削るのか具体策を示さないと政策論にはならない。ちなみに、地方自治体を含む日本の一般政府総支出のGDP比は国民負担率と同様にOECD平均以下で、自衛隊員や警察官を含む公務員数は人口比でも就業者数比でもOECD最少レベルの「小さな政府」なんですがね。



◾️
西側各国が軍事費を増やす中、日本はGDP比で欧米の半分しかない防衛費を増やさずに済む? ロシアのウクライナ侵攻や年々軍事的脅威を高める中国をみて、欧米など西側諸国はこぞって軍事力増強に動いているが、日本だけGDP比で欧米の半分以下しかない防衛費の増額をせずに同盟国の米国や欧州諸国の理解を得られると思いますか? 英国でさえ横須賀に最新鋭空母クイーン・エリザベスを中心とする空母打撃群を派遣し、インド太平洋地域に展開して中国を牽制してるんですよ?
それとも日本は西側の軍事同盟や連携を捨てて、お花畑の非武装中立論で国民を危険に晒すの? コスタリカの「非武装中立」なんて真っ赤な嘘ですよ。「軍隊」と呼んでないだけで、武器を保有している特別警察や国境・沿岸警備隊の予算は隣国ニカラグアの軍事費の3倍だし、米国を中心とする北中南米の軍事同盟である米州機構(OAS)の加盟国ですが?
米国との同盟を捨てて中立を選ぶなら、国防力は倍増どころでは済まず、軍事費(防衛費)で日本の6倍以上、常備兵力で10倍近くある中国との戦力差を考えると、何倍にも強化しないと独立は保てないと思いますが。それとも日本を共産化し、中露陣営に行くとでも言うんですか?
ちなみに、防衛力強化やGDP比2%への防衛予算増額、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有などについては各紙世論調査でも賛成が過半数。世論の大半は、負担増は嫌だけど防衛力増強や防衛費増額の必要性については理解している、ということでしょう。
https://digital.asahi.com/sp/articles/DA3S15506827.htmlhttps://www.yomiuri.co.jp/election/yoron-chosa/20221106-OYT1T50150/https://www.sankei.com/article/20221219-P6THPZYC7JN6XNYZ4OILSLIEF4/?outputType=amphttp://www.kenpoukaigi.gr.jp/saikin-news/230110-05.pdfhttps://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000049.000065702.html

◾️
削れる予算はある? 予算を削るとすれば、どの予算?
高齢者福祉? 日本の高齢者一人当たり給付は決して高くないし、すでに世界一の高齢化率の上昇も止まらない。伸びを抑制するだけで精一杯では?




医療は人手不足で崩壊寸前だし、国際比較のうえでも人員が少ない政府機関や地方自治体、学校も幼保も介護現場もブラック職場化している。どう考えても人員・予算増が必要だと思いますが?




GDP比の公共事業費も欧米と同水準まで削ってきた。ただ、災害激甚化への対応や南海トラフや首都直下地震も近いとされているのに、防災インフラ強化は不要? メンテも必要ですよね。

それとも温暖化対策の再エネ促進への公的助成をやめますか? 日本だけ先進国にもかかわらず石油や天然ガスや石炭を燃やし続け、世界の脱炭素化に背を向けますか?
破滅的な少子化と人口減少対策はどうするの? 子育て支援予算の倍増はやめるの? では代案は? 移民受け入れ? それも必要でしょうが、今や「安い日本」に来てくれる外国人は高度人材にはほとんどいませんよ?
諸外国に比べて貧弱なハイテクへの研究開発助成や科学技術予算も増やさなくていいの?



◾️
20年以上前から不可避だった増税 つまりは20年以上前からどう考えても不可避だった増税を、国民も国会も政府も先送りし続けてきたツケが今、一気に押し寄せてるんですよ。IMFやOECDなどの国際経済機関もずっと前からそのことを指摘してきたし、日本がこれだけ巨額の政府債務を抱えながら日本国債の格付けが投資不適格にならない(つまり財政破綻リスクは小さいと判断している)最大の根拠は、「日本の税金は軽く、増税余地がある」と見ているからだ。もし、政治的な理由で増税できないとなると、国債や円への信認は一夜にして失墜しかねません。
海外で生活や滞在した経験があれば、日本の税負担やサービス料負担がいかに軽いかを実感できるはずです。欧州は消費税負担は20~27%だし、所得税負担も日本より重い国が多い。米国も所得税は日本よりはるかに重いし、消費税はないが、州税の売上税やサービス税、代金の1~2割のチップの習慣もあります。公共分野への個人寄付金額も日本より桁違いに多い。


◾️
日本は民主国家として未熟 日本の納税者や与野党も消費税を「逆進性が高い」と目の敵にし、増税を政治的タブーにしてきた。一方で、法人税や所得税の減税を「景気対策」「直間比率の是正」「国際競争力の維持」と称して下げ続けてきた(最近は緩やかな上昇傾向)。そのギャップが国債累増と世界一の政府債務と日銀の財政ファイナンス。既に持続不能です。
日本人は国家の根幹に関わる政策論に非合理な感情論を持ち込む人が多く、民主主義国家として未熟ですね。
昨年11月27日に放送された
NHKスペシャル選「混迷の世紀 第4回 世界フードショック~揺らぐ『食』の秩序~」から。
番組によると、ロシアのウクライナ侵攻以来、世界最大の小麦輸出国であるロシアは、欧米の経済制裁に加わらない中国や中東への穀物輸出を増やし、友好関係を深めている。
◾️
世界26カ国が食料輸出を禁止・制限 穀物輸入で国内トップのJA全農。子会社の全農グレインが取り扱う穀物輸入量は、日本全体(約3000万㌧)の6割を占める年間約1800万㌧。同社は40年にわたり北米で小麦や家畜飼料用の子実コーンを買い付け、日本に安定的に供給してきたが、ロシアのウクライナ侵攻以来、思うように調達できない事態に。ここ数年、記録的な熱波が続いて生産が減っていた中でウクライナ戦争が起こり、農家がさらなる価格高騰を見越して売り控えるケースが増えている。
また、自国内供給を優先して輸出規制する生産国も増えている。中国に次ぐ世界2位の小麦生産国であるインドも小麦輸出を停止。パーム油の生産・輸出で世界の6割を占めるインドネシアもパーム油の輸出を止めた。食料輸出を禁止したり許可制にして輸出制限している国は26カ国に及んでいる(昨年10月末時点)。世界中で食料争奪戦が始まっているのだ。

◾️
ブラジルの穀倉地帯に先行投資する中国 全農グレインの川崎浩之副社長は穀物調達先を南米にも広げようと、ブラジルを視察。将来は世界一の穀物輸出国になると見られるブラジルには、すでに多数の中国企業が進出しており、圧倒的な存在感を示す。2021年に中国がブラジルに行った農業インフラ投資は投資国中最大の約57億㌦(約8000億円)。中国の強みは資金力に加えて、化学肥料の生産大国であること。特にウクライナ戦争以来、輸出制限している化学肥料などの農業資材を大量に安く供給し、生産した穀物を大量に買い上げる点も強みだ。すでにブラジルから輸出される大豆の7割が中国向けで、今後は飼料用トウモロコシの中国向け輸出も増えていくと見られる。





川崎副社長はブラジル最大手の穀物企業であるアマッジ社を訪問。取引を持ち掛けたが、創業者一族で元ブラジル農相のブライロ・マッジ氏は「日本は食料生産が少ないのに植物検疫機関が非常に厳しく、その要求に応えられないこともある。日本はブラジルの食料をもっと買わないといけないと言いたい」と語る。つまり、日本は自国で食料生産を怠っているのに世界一厳しい検疫で輸入食品をブロックして選べる立場だといつまで勘違いしてるんだ、と揶揄しているのだろう。かつて世界一だった日本の購買力は、もはや中国には太刀打ちできない。

川崎副社長は「ナショナリズムが台頭し、自国の消費需要を優先する動きによって、日本は食料安全保障という観点では極めて危ない立場になってくる」と危機感を募らせる。一方で「ブラジルでは中国資本が牽引するチームがかなり出来上がってしまっているが、その中にいま入り込まないと手遅れになってしまう」とも語る。
「ナショナリズム」とはいうが、世界が食料危機に陥れば、各国政府は自国民への食料供給を優先するのは当たり前のことだろう。

◾️
肥料や飼料高騰に苦しむ国内生産者 一方、日本の生産現場でも輸入に頼っている化学肥料や畜産飼料が円安も加わってウクライナ侵攻前の約1.5~2倍に高騰。生産コストが跳ね上がり、コスト上昇分を販売価格に転嫁できずに苦しんでいる。
養鶏では輸入飼料(飼料用トウモロコシ)代が生産コストの6割を占める。福島県伊達市で月15万羽、300㌧の鶏肉「伊達鶏」などを出荷している大規模養鶏農家の伊達産業は、飼料代高騰によって毎月数千万円の赤字に陥っている。生産すればするほど赤字が膨らむため、大手ファストフードチェーンに30年もブロイラーを出荷してきたが、価格転嫁を認めてくれないために大規模受注を断り、生産縮小を余儀なくされた。
社長の清水建志さんは「この飼料価格高騰は事業継続に関わるほどの問題。このままでは苦しいが、これ以上生産者として何ができるのか、どう乗り越えていけるのか……」と苦悩を滲ませる。日本農業協会による昨年5月の調査では、畜産農家の72.2%が「資金繰りが苦しい」、94.8%が「(飼料代高騰による生産コスト上昇を)価格転嫁できない」と回答している。

また、日本は農業生産に欠かせない化学肥料もほぼ輸入に頼っているが、これもロシアのウクライナ侵攻以来、国際価格が高騰。ロシア自身が化学肥料の輸出大国であり、輸出停止・制限しているロシア、ベラルーシ、中国の3カ国で世界生産の4割を占めている。

東北最大規模の120㌶でコメを生産する宮城県角田市の農業法人「角田健土農場」。年間20㌧の化学肥料を使用しているが、肥料代は過去1年で2倍近くに高騰。コメ価格は低迷が続き、ウクライナ侵攻前から経営は厳しいかったが、肥料高騰が追い討ちとなり、来年度は2000万円近い赤字になる見通しという。小野良憲社長は「これまで経営努力はしてきたが、もう経営維持できないところまで来てしまった。しっかりと生活できない産業というのは今後、衰退していくしかないのかな」と肩を落とす。

農林中金総研は、農業資材高騰に対する国の対策がない場合、コメ農家の93%は赤字に陥ると試算している。
ただ、全農は同じ宮城県大崎市の農家と共同で、東京ドーム20個分に当たる100㌶で飼料用トウモロコシの実証実験をスタート。代替飼料として米粉の生産にも力を入れ始めている。

◾️
「農業を魅力ある産業に」と訴える“欧州の知性” フランス歴代政権の顧問や欧州復興開発銀行の初代総裁も務めた経済学者・思想家のジャック・アタリ氏はこう語る。
「もし私たちがすぐに行動しなければ、15億人以上に影響が及ぶ人類史上最大の食料危機になるかもしれない。もともと異常気象で食料が底を突きかねない状況の中、今回の戦争がダメ押しとなった。大惨事に至るレシピは揃っている。過去4000年、世界で起きた戦争は常に食料不足が関係していた。飢餓に陥ると人々は政府に不満を持つようになり、徒党を組んで暴動が頻発するだろう」
「『命のための経済』を選択する時が来ている。日本はまず農業という仕事が魅力的であるという事実をつくり出すべきだ。社会的地位の面でも収入の面でも農業という産業を魅力的にしなければなりません。そうしなければ農業全体を失う最大の危機に直面するでしょう。今までの食のあり方も自ら賄う方向に考え直すべきでしょう。食料を『健康と文化の基礎』として捉え直すことを社会全体が求められています」
今後、世界の食料危機はますます深まり、円安傾向や人口減少もあって日本の購買力が高まらないとすれば、日本は世界で中国と競って穀物輸入を増やすのではなく、国内で大規模生産法人が儲かる仕組みを構築し、補助金が増えたとしても国内生産を増やし、食料自給率を高めていく方向が賢明だろう。
「日本は今後、海外から食料を買えなくなるかもしれない。だから低い食料自給率を引き上げるべきだ」という食料安全保障論は正直、眉唾だと思っている。
◾️
日本の食料自給率は本当に低い? 理由はいくつかある。
まず、そもそも日本の食料自給率は本当に低いのか? 農水省がいつも強調する日本のカロリーベース自給率は38%と確かに低いが、生産額ベースでは63%(2021年度)で、スイス(50%)や英国(61%)より高く、ドイツ(64%)とほぼ変わらない。
https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/013.html
実は「カロリーベース」なる概念を持ち出して自給率を論じているのは世界でも日本だけのようで、自給率は生産額ベースで算出するのが国際的には常識だ。日本の食料自給率がカロリーベースだと大幅に低下するのは、小麦や家畜の餌(飼料用トウモロコシ)、大豆、大麦などコメ以外の穀物をほぼ輸入に頼っているからだ。
穀物は気候や土壌条件が合っている限り、栽培が簡単で大量生産しやすく、保存も効くので輸出に向いている。世界生産量も輸出国も多いので国際相場が安く、通貨が高い先進国には基本的に向いてないのだ(米国は例外的に広大な穀倉地帯があり、小麦やコーンが慢性的に余剰状態なので、政策的に補助金を使って市場価格を下げて輸出促進している)。そのことが、日本がコメを除く穀物を輸入に頼ってきた最大の理由であり、もともと小麦やコーンは日本に生産適地が少ないうえに輸入価格が安いので、国産は価格面でも太刀打ちできず、ますます増えない原因となっている。
カロリーが高い穀物を大量輸入しているのでカロリーベースの自給率は当然低くなる。一方で価格は安いため、生産額ベースでは数量やカロリーほどウエイトは高くならない。これが、日本の食料自給率がカロリーベースと生産額ベースで大きなギャップがある理由だ。
ただし、欧州は欧州全体で食料安全保障を確保しようとしているので、日本と同列には比較できないかもしれない。日本は生産額ベースの63%でも十分な自給水準とは言えないかもしれない。
◾️
大規模化でコスト削減、生産性向上へ では、食料自給率はカロリーベースと生産額ベースのどちらが重要なのだろうか?
供給途絶による飢餓という極端なケースを想定すればカロリーベースが重要だろうが、自由貿易体制を前提にするなら価格であろう。
食料自給率の向上や食料安保の必要性が殊更に叫ばれ始めたのは、ウクライナ戦争に伴う小麦などの輸出途絶や国際価格高騰、円安・インフレの長期化予想に加えて、新冷戦による世界貿易の分断により自由貿易体制が危機に陥っているとの見方が背景にある。これはエネルギーも同じ。ロシアは世界最大の小麦輸出国であり、ウクライナは同5位(2020年、FAOデータ)。両国で世界輸出量の3割近くを占めている。ウクライナはトウモロコシでも世界4位の輸出国で、全世界輸出量の14.5%を占めている。日本は世界2位のトウモロコシ輸入国だ。
石油・天然ガスの輸出大国であるロシアはウクライナ侵攻に対する経済制裁で世界のエネルギー需給を揺さぶっているだけではない。ロシアは小麦や化学肥料の輸出大国でもあり、やはり化学肥料大国のベラルーシやウクライナの小麦輸出の停止と併せ、世界の食糧危機を招いてもいる。化学肥料はウクライナ戦争後に世界市場への輸出が停止しているロシア、ベラルーシ、中国の3カ国で世界輸出の4割を占めている。
https://toho.tokyo-horei.co.jp/chirinavi/file_download.php?fn=cnavi_komugi_phttps://toho.tokyo-horei.co.jp/chirinavi/file_download.php?fn=cnavi_toumorokosi_p

要は、食料価格高騰で国民のエンゲル係数が急上昇して栄養状態が悪化したり、最悪の場合は供給途絶によって飢餓が増える事態に陥らないようにすることが、食料安保の肝だろう。
単に価格面の問題なら、通貨が高く「買い負け」しない強い経済力を維持し、経済成長することこそが最大の安全保障となる。しかし、もし経済衰退で円安傾向が長期化するなら、それは同時に国産の価格競争力の回復を意味する。もし今の日本が生産力を目一杯使って食料をフル生産しているなら、価格競争力が回復しても増産余力は限られるが、実際はそうではない。コメ消費は年々減り、減反補助金を出してもコメ需給は緩む一方で価格も低迷し、耕作放棄地が増え続けている状態だ。つまり、儲かりさえすれば増産余力はいくらでもある。
担い手の高齢化の問題はあるが、そもそも日本は小規模な片手間兼業農家が多過ぎる。企業や法人の農地取得が拡大し、生産の大規模化が進めば(日本は山地が多く限界はあるとはいえ)生産性はアップし、国産価格も下がることは間違いない。生産経営規模が大きくなるほど生産性が上がることはデータ実証されている。



価格が下がれば国内消費も増えるはずだ。食味や製法の違いはあるとしても、パンや麺類などほとんどの小麦粉製品や家畜飼料も米粉でかなり代替が可能だからだ。さらに国際相場が上がれば輸出も視野に入り、増産に弾みがつく。野菜や畜産も基本的には同じだ。フルーツや花などは食味や新品種開発で国際的にも高い技術評価を受けており、高付加価値商品として輸出も年々増えている。
戦争などによる一時的な供給ショックに対しては政府備蓄で対応するしかない。天候不順による凶作への対応も同じだ。備蓄の取り崩しで時間を稼ぎ、国内生産を増やせばよい。日本はいざとなればコメを中心に増産余力が十分にあるはずだ。
◾️
消費者負担か、財政負担か? そうした供給ショックや国際相場の急騰に平時から備えるには、自給率は高いほどいいし、穀物備蓄も多いほどよいが、それにはカネがかかる。そのカネは財政が負担するか消費者が負担するかしかないが、要はどの程度まで国民が負担を許容できるのかということだ。自由貿易体制が盤石な限り、または世界の人口増加に対して食料生産が追いつく限りにおいては、穀物は輸入した方がコストは安く済む。しかし、世界が今後そうでなるとすれば、少なくとも基幹作物である国産米への需要は高まり、価格競争力も上がるので、フル生産体制を整える必要があろう。
これまでの日本のコメ政策のように、価格競争力がないのに自給率を無理に高めようとすれば、安い輸入品を関税でブロックし、消費者に高い国産米を買わせて自給率100%近くを確保(国際相場との差額を消費者が負担)するか、はたまた欧米のように小麦やトウモロコシのような戦略作物は市場価格を国際相場近くまで下げて輸出を促進し、生産コストとの差額を生産者に所得補償するか、どちらかしかない。そのコストは前者(日本)は消費者が、後者(欧米)は財政がそれぞれ負担している。基礎食料への価格転嫁は所得逆進性が高いので、財政負担の方が累進性の高い負担となる。
◾️
「農政トライアングル」の蹉跌 とはいえ、日本はそもそも石油・天然ガスや肥料・農薬原料を100%近く輸入に頼っている。「農業は石油依存産業」とよく言われるように、石油・天然ガスやりん鉱石、カリ鉱石等の鉱物で作る化学肥料や農薬、石油燃料で動く農機、暖房が必要なハウスがなければ生産できないし、トラック物流がなければ消費者の元にも運べない。畜産・酪農は家畜の餌を輸入トウモロコシにほぼ100%頼っており、その意味でも「国産肉」や「国産牛乳・乳製品」は本当は国産とも言い難い。例えば養鶏は飼料代が生産コストの6割を占めている。
国産の飼料用コーンや飼料用米(くず米)の国内生産を増やし、置き換えていく方法もあるが、現状では価格差が大き過ぎる。補助金などで政策的に国産化を進めれば、国民負担は急増するだろう。円安や国際相場上昇で輸入価格が上がれば、国産との価格差が縮まるので国産は増えるはずだ。生産力さえあれば、だが。
つまり、そもそも日本はエネルギー自給率が低いので、石油依存度の高い食料生産を(国民負担を増やして)無理に増やして自給率を上げるだけでは、安全保障としてはあまり意味はない。再エネや原発によってエネルギー自給率を上げないと、片手落ち(新聞・放送禁止用語w)だということ。大事なのは、最小の国民負担でどう基幹作物の生産を維持・拡大できるかを考えることだろう。その意味でも、生産力が年々細っている日本のコメ政策は根本的に「政策の失敗」であることが明白で、コメの高関税と減反による価格支持を基本とする「農政トライアングル」(農林族議員、農水省、農協JA)の零細稲作農家保護政策を根本的に転換する必要がある。
◾️
コメ輸出拡大こそ最強の食料安保 もともと日本の気候・土壌はコメ生産に向いており、日本産米の食味や品質は国際的評価も高く、富裕層に人気がある。今の高い価格でさえ年々輸出は増えているのだ。このところの世界的インフレや円安の影響もあり、最近では米国産米と日本産米の市場価格差もほとんどなくなっている。
http://fukutyonzoku.blog.fc2.com/blog-entry-151.html?sp


失敗続きのコメ政策を転換し、企業参入の促進で大規模化を進めて生産性を高め、販売価格を国際相場以下に引き下げ、生産性の高い大規模経営体がペイできる範囲で生産コストとの差を所得補償しながら増産に舵を切り、輸出をさらに促進すべきだろう。平時の輸出分は、危機時には国内供給に回すバッファーとなるからだ。輸出拡大こそ最強の食料安保となる。
大規模化によって生産性が高まるほど、また円安やインフレによって国際相場が上がるほど、所得補償などの財政負担も軽減されることになる。今こそ、世界の食料危機をチャンスに変える発想の転換が日本の農政には必要だ。