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TPP反対派大学准教授のデタラメ農業保護論②

Posted by fukutyonzoku on 27.2011 政治・経済 3 comments 0 trackback
さて、本題の再反論です。

>この記者さんの勤務する某全国紙は、数年前までは「農家への直接支払」というと、「バラマキ!」と叫んで大反対していたのですが・・・

→マスコミを批判するのは自由だが、事実を捻じ曲げて貶めるのはやめましょうよ。殆どの全国紙は、農家への直接支払い自体については評価しています。バラマキだと批判しているのは直接支払いそのものではなく、一律の戸別所得補償という支払い方です。そのぐらいはちゃんとチェックしてから批判してください。
ちなみにEUの共通農業政策(CAP)でも一律支払いは削減される方向で、農村支援策など各国の実情に応じて重点的な予算配分に軸足を移しつつあります。

>関税による消費者の税外負担と、関税撤廃後の農家へのセーフティネット拡充による納税者負担ではどちらが大きくなるでしょうか? 一般論としては、内外の価格差を消費者が負担しようが、内外価格差の分を農家への直接所得支払で補填しようが、金額は同じになるはずです。

→そのことは私が既に述べています。
http://twitter.com/fukutyonzoku/status/136886931861676032

>TPP推進派の山下一仁氏は、関税による農業保護で消費者負担は約4.0兆円と書いております。

→事実が微妙に違います。山下氏が4兆円と言っているのはOECDの試算ですが、これはご本人も指摘している通り、国産農産物のみを対象に内外価格差と生産量から弾いた推計です。実際に関税や課徴金が課されて国内に入って消費されている外国産を含めたトータルの消費者負担はもっと大きくなります。(http://www.rieti.go.jp/jp/papers/contribution/yamashita/77.html
例えば一つの簡単な推計方法ですが、個人消費(民間最終消費支出)307兆円、エンゲル係数23%、農作物平均関税率21%を使って計算すれば約15兆円になります。

>TPP反対派の鈴木宣弘氏は、関税を撤廃した場合、農家への直接支払だけで総額3兆円が必要、さらに関税収入が1兆円ほど減るので、その分の代替財源も含めて総額4兆円が必要になると論じています。

→試算自体が不正確で相当に恣意的。
まず、鈴木氏の試算は、現在のコメ生産コストと「輸入米価格」との差額を全額財政で補填するという前提です。(http://tpp.main.jp/home/wp-content/uploads/d58e252c5ea75e0feb1ae7c3d802d9f7.pdf
後継者さえいない小規模農家まで現在の環境で丸ごと保護し続けるとすれば財政負担がどのぐらいになるか、という試算の大前提がそもそも非現実的です。また、10年後に関税がゼロになるまで国内農業の生産性は上昇せず、輸入米価格も不変(上昇しない)という想定も、現実にはあり得ない。現在の生産量と価格を国内市場だけで維持し続けること自体、そもそも不可能でしょう。なぜなら国内のコメは生産過剰で、政府は生産調整(減反)で必死に価格を維持しているが、それでも消費は減り続けており、価格低下に歯止めがかからないのが実情。コメ離れや高齢化や人口減少で今後も国内のコメ消費は減り続ける可能性が高いのに、輸出もせずに国内生産量を維持し、価格も維持するという前提はもはやSF。逆に、国際的な穀物市場は上がっていく可能性が高い。従って、この試算はそもそも無意味。

さらに指摘しておきたい重要なポイントは、試算の前提として使っている「輸入米価格(1俵)3000円」という数字。こんな低い価格はどこから拾ってきたのか。内外価格差を大きく見せるためのマジックでしょう。
下記に米国産米の米国内小売価格を丹念に調べた調査がいくつかあります。
http://d.hatena.ne.jp/settu-jp/touch/20110311/1299775446

http://tpp.main.jp/home/wp-content/uploads/d58e252c5ea75e0feb1ae7c3d802d9f7.pdf

これらの詳細な調査によれば、現在の円高水準(1㌦=78円)で換算しても、最も安い中粒米でも60kg(1俵)=7000~1万円、日本と同じ短粒米だと安くても1万円、コシヒカリ等のブランド米なら1万5000~2万7000円もする。どこをどう計算しても3000円などという数字は出てこないし、国産米と同等のもので比較すれば、日本の相場と大差がない。仮に日本へ関税ゼロで輸出されたとしても、海上輸送コストや日本での流通コストが上乗せされるから、物によっては国産米より高くなる。しかも、米国産米価格は長期上昇傾向にあるし、今後もし為替が円安に触れれば輸入価格はさらに高くなる。とすれば「安い海外産米が大量に輸入される」ということは起こり得ない。中国産米についても価格が上昇しており、国産米と殆ど変わらない価格水準になっていることを、前述の山下氏が正確なデータをもとに繰り返し指摘している。
従って、鈴木氏やあなたが指摘する「4兆円の財政負担が必要になる」という数字は全くのデタラメ、かつナンセンスである。


>同じ4兆円なら、4兆円もの財源を確保する徴税コスト、そしてそれを支給する行政コスト、補助金支給に伴う利権の発生などなどを考えれば、税関のみで事足りる関税の方が不要なコストの発生を回避でき、透明性が高いといえるでしょう。

→この方はいつもこうして自分に都合のいい情報だけを強調し、「不都合な真実」は無視する。この場合、関税徴収コストが不要になることを無視している。輸出業者にとっては海外での関税支払いのための事務コストも不要になる。
また、関税の方が数量制限などの国境措置と比べれば透明性が高いと言えなくもないが、補助金と比べて高いと言えますか? 補助金は予算措置だから金額や内容が一目瞭然であり、国会審議など民主的な手続きを毎年クリアする必要がある。一方で関税は一旦導入されれば忘れられ、実質的な負担額が消費者に意識されにくく、実際の消費者負担額も見えにくい点で明らかに不透明。前記のように、実質的な消費者負担額は計算の仕方によって相当に幅が出ることだけで、謀らずもその不透明性が証明されている。

>かりに国民も納得する少ない行政コスト・高い透明性で農家へのセーフティネットを整備できると仮定しましょう。その農家へのセーフティネットの財源はどこから持ってくるのでしょうか? 記者氏はそのことに何も書いていないのです。消費税で代替すれば消費者負担は代わりません。

→変わります。大違いですよ。関税は消費者の100%負担です。しかも農産物という生活必需品にかけられているのだから、これほど低所得者にとって負担が重く、逆進性の高い税はない。消費税も基本は同じだが、欧州の付加価値税では食料品などの生活必需品は適用除外、または軽減税率が適用されているケースが多く、日本も今後消費税を上げていく過程で同じ措置が取られる可能性が少なからずある。また、そもそも財政支出(直接支払い)なら財源は消費税だけではないから、逆進性は薄まる。現在消費税は財源全体の9分の1、税収の4分の1以下に過ぎない。つまり関税こそが不透明かつ弱者を直撃する、とんでもない税なのですよ。


>百歩譲って、この程度の輸出利益が出たとして、しかもそれが全額徴税されて国の一般会計に回ったとしても、とても4兆円の財源にはほど遠いのです。ましてや貿易利益が年間3000億円で、関税収入の損失が年間1兆円なら、ネットで見てもマイナスといえそうです。

→倒錯した論理。予想される輸出利益の増加分と、必要となる農業予算の増額分を比べて「ネットでマイナス」などと言うのは明らかな論理の誤り。関税措置に伴う消費者負担が4兆円、そのために必要な予算措置が4兆円という数字が仮に正しいとしても、生産者と消費者の得失はちょうどチャラ。ネットで、というなら、輸出産業が恩恵を被る分のほか、農産物以外の関税も撤廃されて消費者や事業者が恩恵を受ける分が、国民経済全体としては丸々プラスになるーーこれが、あなたの示した数字から導き出せる正しい政策的含意です。しかも、前述のようにこの数字はそもそも不正確。正しい数字を用いれば、輸出利益や農外関税撤廃の利益を無視したとしてもチャラではなく、農産物だけで少なくとも何兆円規模のプラスになる。
また、輸出増効果は内閣府等のモデル推計では小さく見えるが、TPPに不参加の場合、製造業の空洞化や農業生産性の停滞といった起こり得るマイナス影響を織り込めば、実質的なプラス効果はさらに大きくなるはずです。


>WTO協定上では、関税はOKですが、過度な補助金は違反行為であり相殺措置の対象になります。WTOの「補助金及び相殺措置に関する協定」の第6条には「補助金の総額が産品の価格の5%を超える場合」は、相殺措置の対象と定義されています。

→これもミスリード。「関税はOK」は間違いとも言い切れないが、基本的に日本のような先進国が高関税OKではない。そもそもは輸入禁止や数量制限などの国境措置をやめさせるためにそれらをすべて一旦関税に置き換え、それから相互に関税を引き下げていこうというのが基本的な考え方。補助金については、79年終結の東京ラウンドで関税と同様の効果を持つ非関税障壁の一つとして初めて取り上げられ、規制のためのルール作りが進んできた経緯がある。「関税OK、補助金ダメ」などというあなたの説明は明らかな歪曲。補助金は自由貿易を阻害しない内容なら先進国もOKで、輸出補助金や価格支持(レッド)に当たらないブルー、グリーンなどのカテゴリーは広範に認められている。だから米国もEUも堂々とやっている。日本もそのルールに則って関税を段階的に引き下げ、直接支払いや農業振興に政策の重点を移せばいいのです。
http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/issue/0420.pdf


>アメリカは農業に対し年間10兆円もの補助金をばらまき......

→大嘘! 10兆円は「連邦農業関連予算」全体の数字。実際にはその7割がフードスタンプなどの栄養・食料援助プログラム予算であり、いわば貧困対策。農業予算というよりも社会福祉予算に近い性格のもので、農業生産者に回るカネではない。近年米国の「農業関連予算」が爆発的に増えているのは、この予算が急激に伸びているからだよ。
米国の農業生産者への補助金はWTO協定上のAMS上限(191億㌦、現在の為替レートで約1.5兆円)を上回っているとしてEUやブラジルが米国と争った。つまり、多く見積もってもせいぜい200億㌦強、2兆円にも満たない。しかも、財政赤字と農産物価格の上昇傾向で補助金は削減傾向にある。「米国は農業に対し10兆円もの補助金をばら撒いている」などと平気で事実を捻じ曲げるのは、勉強不足か意図的な情報操作のどちらかとしか判断のしようがない。
http://www.maff.go.jp/primaff/meeting/kaisai/df/110920.pdf

http://www.juno.dti.ne.jp/tkitaba/agrifood/namerica/news/05020701.htm

>日本のマスコミは、関税を目の敵にして、国際標準にあわせて農業補助金に変えようと主張するのです。国際標準は日本や途上国がかけている「関税」で、米国やEUの補助金が標準に反するのです。

→途上国やLDCには高関税が認められているが、日本は途上国ですか? 韓国やASEANでさえ日本ほど保守的ではない。ウルグアイ・ラウンドでは途上国代表として米国に反発したのがインドだったから途上国はついていったが、仮に日本が同じことをやったら世界の笑い者になっていたでしょうね。事実、インドはWTO交渉で先進国の農業保護は不要だとはっきり言っている。

>「餓死」が極端な仮定とは驚きです。この記者さん、日本の何を取材しているのでしょうか? いま現在でも日本で餓死者が出ていることをどう思っているのでしょうか。

→典型的な議論のすり替え。あなたや相手の学生さんが「自由貿易で低価格の輸入農産物が大量に入ってきて国内農業が壊滅。その後に食糧不足などで輸入が途絶した場合、国内生産を回復しようとしても2~3年はかかる。問題はその間に食糧不足で餓死者が出ることだ」と突拍子もない話をするから、それなら「備蓄で対応すれば餓死などという極端な仮定は無意味」と当たり前のことを言ったまで。事実、そのために各国は備蓄をやっている。そのセイフティーネットの存在を考慮の外に置いて空理空論を振りかざすのはナンセンスだと言ったのです。
言うまでもないが、現実に日本で起こっている餓死の問題は、農業自由化や農作物の価格変動とは全く無関係。むしろ、農産物関税を撤廃し、食品相場を下げた方が貧困層も食料を安く買えるので餓死者は減るでしょう。

>TPPへの加入に際して、備蓄の必要性を感じているのなら、記者さんの新聞は「TPP加入のために穀物備蓄体制を強化しよう」と訴えるべきでしょう。寡聞にしてそのような記事は見たことがありません。その場しのぎの方便で言っているだけでしょう。

→備蓄で対応すればいいと言っているのは、あなた方の極端な仮定がもし本当に起こるとしても、という前提で話している。そもそも多くの専門家もマスコミも、日本がTPPに参加してもあなた方が言うような極端な事態が起こるリスクは限りなく小さいと思っているので、備蓄を強化せよなどと殊更に主張する理由がない。しかも、例外項目が仮に認められなかったとしても関税が完全撤廃されるのは10年後、影響が始めるのは7~8年後のこと。今から慌てて備蓄を強化する理由は見当たらない。

> 財政不足の国には、そのようなセーフティネットなど整備できないことが大問題なのです。NAFTAは、アメリカでは製造業労働者の雇用を奪い、メキシコでは製造業の雇用増(50万人)の4倍の農家(200万人)の経営を破滅させ、米国とメキシコ双方の失業率の上昇に貢献しました。お互いの国が、お互いの国の不効率部門を攻撃し合うわけですから、トータルで見て失業が増えるのは当たり前でしょう。

→NAFTA締結以降のメキシコの農業人口の減少数は130万~150万人だと思うが、95~96年のペソ危機による不況の影響だとするのが常識的な評価であり、NAFTAの影響だとする証拠は何もない。
下記の記事が中立的な評価でしょう。
「メキシコにおける農業分野における雇用の減少に関して、世界銀行は、この問題はNAFTA条約が提携される前から存在した問題であり、世界中で存在している農村部から都市部への流出が原因で起こった自然の流れであり、NAFTAが農業雇用の減少を引き起こしたと証明する根拠はないとしている。NAFTA条約は農作物の輸出に対して非常に大きな利益をもたらした。しかし、おそらく、メキシコ南部で小規模に農業を行っている人々に与えた利益は少なかったかもしれない。南部では長年に亘り、社会、政治、経済から見捨てられた状態として、人々は苦悩の日々を送っている」
http://page.freett.com/bienvenido/03_12_21.html

私が「それはセーフティーネットの問題だ」と言ったのはそういう意味です。NAFTA以降、最初の10年間でメキシコからアメリカへの輸出額は3.4倍になった。GDPはもちろん農業に限っても輸出・生産額ともに拡大、生産性や食料自給率も上昇している。メキシコ経済全体としてはもちろん、農業分野でも利益があったことは疑う余地がない。その分、メキシコ経済全体としては南部の貧困問題に対応する余力が高まったことを意味する。それをどこまでやるかやらないかは政治(所得再配分)の問題だが、メキシコ政府は農業支援予算を増やしている。ただ、南部の貧困、農村対策が相対的に不十分なのかもしれない。
また、そもそも「アメリカの安い農産物が大量に輸入されてメキシコ農業が壊滅的な打撃を受け、唯一の生存手段であった農業を奪われた先住民族が生存の危機に陥っている」とするあなたの説明は、論理的に矛盾している。もし彼らが生存のためだけの自給自足的な農業をやっていたとすれば、外部経済の影響をそもそも受けていないのだから、NAFTAの影響が及ぶはずもない。影響があったというのなら、彼らは農産物等を外部と商業取引し、市場経済の中で生きているということ。であれば、ことさらに先住民族の生存権云々を強調するのは、悪質なイメージ宣伝でしかない。
事実としてもメキシコの食料自給率は向上しており、アメリカの安い農産物が大量に流入するという反グローバリズム主義者たちが懸念した事態は起こっていない。「アメリカの脅威」を殊更に強調する人たちは、こうした事実をきちんと見ていない。
http://www.maff.go.jp/j/kokusai/kokusei/kaigai_nogyo/k_syokuryo/h16/pdf/h16_america_04.pdf

> この記者さん、TPPで日本の雇用が増えると本気で思っているのでしょうか? 百歩譲って製造業で少しばかり非正規の雇用が増えたとしても、農家の経営破たんでそれ以上の失業者が発生するのはメキシコで起きたことと同様です。

→メキシコがNAFTAの影響で失業者が増えたとする解釈は間違い。94~95年に一時的に失業率が跳ね上がったのはペソ危機の影響であることは明らかで、その後は2000年ごろまで失業率は低下している。この失業率低下こそがむしろNAFTAのプラス効果だとする分析の方が余程説得力がある。1980年以降の失業率の推移は、ペソ危機時を除けばアメリカとほぼ連動しており、しかもアメリカより低水準。主要国の中でほぼ一貫して失業率が上昇し続けているのは日本だけですよ。
http://ecodb.net/exec/trans_weo.php?d=LUR&s=1980&e=2011&c1=MX&c2=CA&c3=JP&c4=DE&c5=GB&c6=US

世銀も指摘しているように、農家減少はNAFTA以前からの構造問題が影響している。日本も同じでしょう。TPPに参加しなくても、生産人口の高齢化、担い手不足などで農業雇用が今後急激に減っていくのは避けられない。TPPに参加しなくても、大規模化等で生産性を上げていかなければ、過剰なコメ以外は生産量も食料自給率も維持すらできなくなる。
逆にTPP交渉に参加しなければ、競争力のある製造業の空洞化がますます加速し、雇用減少に拍車がかかる危険性を理解すべき。
また、メキシコは小規模専業農家が圧倒的に多い。日本の農家の7割超を占める兼業農家は工場など勤め先からの農外収入があるから片手間でも農業をやってこれた。日本の競争力の源泉であるその製造業が大挙して海外へ移転しようとしている。それを少しでも食い止めるのが、農村の雇用政策にとっても重要でしょう。
http://www.maff.go.jp/j/kokusai/kokusei/kaigai_nogyo/k_syokuryo/h16/pdf/h16_america_04.pdf

>(食料品が工業製品に比べて価格が乱高下しやすいと)一概に言えます。工業製品価格は生産コストの低下で下落はしても、逆に上昇するということはめったにありません。急激に上昇することが一番困るのです。

→半導体は例がよくなかったかもしれないが、例えば石油・化学製品などの市況性の強い工業製品は、常に激しい価格の乱高下に見舞われていますよ。


>これまで記者さんが属する某全国紙などが「日本のため」と称して叫び続けた金融自由化・貿易自由化・規制緩和の結果、若者のじつに50%近くが正社員にもなれない非正規労働へと追いやられ、生活保護受給者は10年前から倍増して200万人を超え、うつ病患者も100万人以上と倍増させ、財政を圧迫しているんじゃないですか?

→手垢の付いたグローバリズム批判ですが、少なくとも日本経済の分析としては間違っています。指摘したような苦しい状況になっているのは事実でしすが、それは「金融自由化・貿易自由化・規制緩和の結果」ではない。基本的にはデフレ経済が20年も続いているためです。デフレが止まらないのは、日銀の金融政策に全責任を押し付けたい人たちもいますが、私は、需給ギャップが数十兆円もあるのに人口減などで内需が拡大する見込みがないと皆が思っており、従ってインフレ期待がまったく出てこないことが事の本質だと思っています。雇用の不安定化は先進国に共通してみられる問題で、これはグローバル化の影響があるだろうが、一方で途上国には莫大な富と雇用を生み出している。
アフリカ経済にはこれまでの国際援助はあまり効果がなかったが、資源価格が高騰し、資源関連の開発投資が殺到してようやくテークオフした。
「欲望だけがアフリカを救う」(2007年11月、米ビジネスウィーク誌)http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20071207/142631/?rt=nocnt

端的に言えば、グローバリズムや金融自由化にはそれほどの大きなプラス効果がある。先進国が自国の利益だけを考えて保護主義に走り、小さな既得権にしがみついていては、世界は進歩しないし、貧困問題も解決せず、平和も訪れない。一国平和主義を脱し、世界全体の大きな利益を考えれば、先進国は産業構造をさらに高度化し、国際分業を進めていくしかない。
農産品も現実に貿易財なのだから、これだけ除外するという理屈は、潜在的な生産余力のある途上国やLDCのためにも、日本のような消費大国のためにも、通らない。国内の農産物にだって産地間の生産性や価格に差があり、一定の競争原理が働いている。生産不適地では農業をしないか別の農産品を作っている。それをグローバルにやればさらに効率や生産性が上がる。基本的には世界全体にとって良いこと。

> ちなみに、この記者さん、私の記事である「農産物関税を撤廃してはいけない理由その2」に関しては何もコメントしていませんでした。これは全く反論できないからでしょう。

→違います。「1」がこれだけ支離滅裂なのだから、同じ筆者の書いたものはこれ以上読んでも仕方ないと思い、読んでいないだけです。読んだところで、どうせ同じでしょう。

> 何もわかっていないのは記者さんの方です。経済学部以外の人間にはわかりそうもないジャーゴンを並べれば素人を煙にまけると考えているだけでしょう。痛々しいです。

→ あなたはご自身のブログの中で「経済学は素人です」と告白されていますね。そのあなたが経済学の説教を垂れるのですか? そういうのを二枚舌というのです。私が言おうとしたのは、あなた方の新古典派経済学批判は、いかにもステレオタイプで時代遅れ。中傷が目的化した論者以外にそんな古典的な議論を今でも振りかざしているマトモな経済学者はいませんよ、ということです。グローバリズム批判、ウォール街批判を強めているスティグリッツでさえ、グローバリゼーションの効用や必要性は否定していませんよ。

>クルーグマンにしたって関税の撤廃になど同意しないだろうと思います。つい昨年も、クルーグマン氏は中国に対する対抗関税を提起したばかりです。この記者さん、このクルーグマンが提起した収穫逓増の貿易理論が、そもそもは自由貿易を否定する論理だということも分かっていないでしょう。愚かしいことです。

→自由貿易を否定する論理? そんな馬鹿な。http://www.rieti.go.jp/users/tanaka-ayumu/serial/002.html
あなたに罹れば全ての理論はあなたの主張を裏付ける理屈に化けてしまうようです。

クルーグマンの中国への対抗関税提起は、関税がいいと言っているのではない。中国が自由貿易の恩恵だけは最大限に受けながら世界の資本取引ルールを無視し、通貨を操作して人民元を低く抑えている、それに対抗するための止むを得ない強硬策として提起したのですよ。「目には目を」の論理で、裏返せば関税措置とは通貨操作と同じぐらい自由貿易や自由資本市場の理念に反した野蛮な行為だ、と言っているようなものですよ。
むしろクルーグマンは、グローバリゼーションや貿易拡大効果を積極的に評価し、あなたのような反グローバリズム主義者たちの愚かしさを丁寧に、論理的に説明していますよ。
「グローバル経済を動かす愚かな人々」にも収録されていますが、「低賃金労働への賞賛:ひどい賃金のひどい仕事でも無職よりマシ」
http://www.geocities.jp/left_over_junk/krugman_ds_smokey.html

前記「欲望だけがアフリカを
救う」の話も、本質は同じですね。

>……もっとも非論理的で、精神主義的な議論がお好きなようです。困窮者に共感することもできず、根拠なく市場原理を礼賛する悪癖を持つ傾向があります。

→「市場原理を礼賛」を「グローバリズムを批判」に代えて、そっくりあなたにお返しします。困窮者に共感することと、その原因分析や処方箋を正しく示すこととは別のこと。「大学教員の端くれ」を自認するなら、もっと科学的態度を身につけましょう。あなたの態度は、情緒的なスタンス・結論がまず先にありきで、その主張を支えるためには事実関係やデータを平気で捻じ曲げるという非科学的な態度にしか見えません。高い学費を払って、そんな情動的、非科学的な態度や主張を押し付けられる学生さんが、憐れでならない。もっとも、賢明な学生ならそんな曲学阿世の徒に洗脳されることはないと信じたいですが。
もし今回の一連のやり取りを講義で取り上げるなら、私のこの再反論も忘れず資料添付してくださいね。あなたが恥をかくだけだから、講義の題材にするのはやめておいた方が賢明だと思いますが…。

【おわりに】
これは、あなたのブログの冒頭の記述ですが、本題ではないので、最後に回しました。

>私のブログ記事が「支離滅裂」「バカ」「無知」・・・・と言いたい放題に罵倒されている

→「バカ」と断定したわけではありません。関税の説明で重要な消費者負担の説明が欠落していることについて「論者は分かっていながらわざとミスリードしているのか、本当にバカなのかはわからんが」と条件付きで推測を記しているだけです。どちらなのか、いまだにわかりませんが。
なお、あなたは反論ブログの中では、価格支持の説明が欠落していることについて何ら釈明がなく、何事もなかったかのように私の指摘を受け入れ、修正しています。まずは自分の説明が一方的でミスリードだった、と潔く認めることから始めるべきでしょう。
ちなみに、あなたは私のtweetの内容のみを引用しているが、私と論争になった相手の学生さんは私に対し、以下の言葉を吐き捨てています。
「知力が高いわけじゃない」「無責任」「無知」「経済至上主義者」「利己的」「非論理的」「他人事」「上から目線」
やり取りをフォローしていたらしい別の学生さんが見るに見かねて「学生に相手をしてくれているんだから、少しは敬意を払ったら」と相手に忠告したほどです。その相手が、あなたのブログのURLを掲載し、しつこく感想を求めてきたので、あなたがどこの誰かも確かめず、一読した感想を率直に呟きました。そうした経緯を無視して相手の発言内容には一切触れず、一方的にこちらの発言だけを恣意的に拾い出し、「高圧的に罵倒するバブル・オジサン」とこき下ろすのは、フェアではない。

ちなみに私は、バブル入社世代ではなく、それより少し前の世代です。バブル期には県民所得は下から数えて何番目という地方支局におり、生活実感としてもバブルの狂騒とは無縁。従って「バブル・オジサン」は事実に反しています。
あなたの殆ど全ての文章がそうですが、批判するなら思い込みで書き散らすのではなく、せめて最低限の事実関係は確認してからにしましょうよ。それがアカデミズムを奉ずる者の最低限の倫理です。
また「バブル世代は日本のお荷物」などと誹謗してこの世代の人たちを全員敵に回すのはご自由ですが、私はそうは思いませんよ。彼らは大勢の同世代の同僚たちと激しい競争に晒されています。あまり一面的な批判ばかりするのは、自分が一面的な見方しかできない人物であることを衆目に晒しているようなものです。おやめなさい。
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