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ソチ五輪に見るスキーブランドの変遷

Posted by fukutyonzoku on 12.2014 スポーツ 22 comments 0 trackback
ソチ五輪でのスキー競技をテレビで見ながら、選手が使用しているマテリアルのブランドが気になって、少し調べてみた。

雪国育ちの私は、近くに手頃なスキー場があったこともあり、小学校に入る以前からスキーを始めていた。小中時代には地元の大会に毎冬出場するなどアルペンスキー(斜面に立てた旗門をくぐりタイムを競うスキーレース。回転、大回転、滑降など)も齧った。1990年代以降はスキー板の主流が、曲がりやすく短かいカービングスキーに変わってからも、「FISCHER」(フィッシャー、オーストリア)のカービングスキーを購入し、雪国で勤務していた頃には現地で開催されるスキー大会でシニアの部に幾度かエントリーするなど、競技者としても多少の経験がある。このため競技スキーには今でも関心があり、世界のトップ選手の技術と同時に、使用しているマテリアルにもついつい目がいってしまうのだ。

モーグルの板は日本製2社がほぼ独占


モーグルでは「ID one」と「Hart」がほぼ独占(右端は日本男子のエース、遠藤尚選手)

モーグルで目立ったスキー板のブランドは「ID one」(アイ・ディー・ワン)と「Hart」(ハート)で、ともに日本のブランド。モーグルの国内トップ選手は上村愛子が「ID one」、伊藤みきや遠藤尚らが「Hart」。ソチ五輪を見ていても、この両ブランドが8割方独占している印象で、これは嬉しい発見だった。私が子供の頃にはモーグルという競技自体、聞いたことさえなかったものだが…。


「Hart」の遠藤尚選手(左)と「ID one」の上村愛子選手


「Hart」の伊藤みき選手。ソチ五輪ではケガに泣いた

Hartは1955年に米国で生まれたブランドで、1970年代にフリースタイルで一世を風靡した。その後撤退したようで、日本のスキー量販店「アルペン」のグループ会社、ジャパーナ(本社・名古屋市)が商標権を取得。同社は、スキー分野から97年に撤退したヤマハの岐阜県内の生産設備と職人を引き継ぎ、取得した「Hart」ブランドで新たにスキー生産を開始した。つまり現在のHartスキーは、ピアノやバイクで有名なあのYAMAHAがルーツなのだ。
ヤマハスキーと言えば、92年アルベールビル五輪男子回転で金メダルを獲得したヤッゲ(ノルウェー)が履いていた名門だった。
http://www.alpen-group.jp/brand/japana.html#hart

一方「ID one」は、大阪のスポーツ用品卸売り・小売りのマテリアルスポーツ社が2000年に立ち上げた新興の純国産スキー板。国内で唯一生き残ったスキーメーカーである名門オガサカ(小賀坂、長野市)の工場に生産委託しているようだ。デザインやロゴが斬新で、見慣れないと一見してどのブランドか分かりにくい。スキーの汚れと間違うような、墨汁を落とした跡のような部分もある。上村愛子選手をはじめ、世界の錚々たるトップ選手がこの板を使用している。上村選手は高校生だった最初の五輪ではHartの板を履いていたが、その後ID oneに乗り替えたようだ。ただ、板以外はHartを使用するHartの契約選手でもある。
http://www.idoneski.com/athlete.html

姿を消した国産名門ブランド

かつて国内にはヤマハ以外にも、ともに大正時代の1912年に創業した前述のオガサカとカザマ(風間、新潟県)、1917年創業のハガ(芳賀、札幌市)、さらに1937年に長野県庁の要請で学校教育用のスキー製造を開始したニシザワ(西沢、長野市)など、多くの名門国産スキーメーカーが凌ぎを削っていた。
オガサカは全日本スキー連盟(SAJ)の「公式認定スキー」の感があり、滑りの美しさを競う基礎スキー(デモンストレーション・スキー)界で独特の地位を確立している。


オガサカスキーは健在

カザマはかつて、板のトップの反り返り部分に小さな穴を5つ空けて風の抵抗を抑える、という独創的な板を出していた記憶が今も鮮明だ。
私が子供の頃、一般のゲレンデスキーヤーの間ではこれら国産板が主流だった。当時は今より遥かに円安で、舶来モノより国産スキーの方が値ごろ感があったし、これら国産スキー板は「柔軟性が高く、日本の雪質(べた雪)に合っており扱いやすい」イメージが定着していた。
しかし、バブル崩壊後のスキー人気低迷や円高、輸入関税撤廃よる輸入製品価格の低下に押され、91年にハガが、96年にカザマが倒産。97年にヤマハがスキーから撤退、長野五輪が開催された98年にはニシザワも撤退するなど、名門国産メーカーはその殆どが実質的に姿を消した。
カザマの商標権はジャパーナが、ニシザワの商標権はスポーツ量販店ヒマラヤスポーツ(本社・岐阜市)が、それぞれ引き継いだ。しかし、現在のものは中国の工場で製造されている量産品で、かつての名門国産ブランドのロゴを貼り付けただけのスポーツ量販店のプライベートブランド(PB)に過ぎない。かつての名門ブランドとは別物と考えた方が良さそうだ。ヒマラヤはその後、ニシザワブランドのスキー製造をやめてしまったようだ。
なお、カザマ倒産後にカザマにいた技術者数人が新たに立ち上げた国産ブランドが「KEI-SKI」である。
http://s.ameblo.jp/9daime/entry-10385388161.html

「Hart」は伝統的にフリースタイルスキーのブランドイメージが強いようで、ソチ五輪でもモーグルでしか見かけないが、アルペン界で日本製Hartを草創期から使用しているのが日本のアルペン界のエース、湯浅直樹選手。W杯など欧州転戦にもHartの職人がエンジニアスタッフとして帯同している。スキー量販店「アルペン」は、レース用スキー板としてHartの「湯浅直樹モデル」も販売している。
ただし、これは他の有力メーカーも事情は同じだろうが、一般向けの量産品は中国の自社工場やスロベニア(ELAN社によるOEM)で生産されているようだ。
http://www.hokkaido-np.co.jp/cont/madeinjapan/81207.html
http://m.chiebukuro.yahoo.co.jp/detail/q1353523633

撤退が相次いだジャンプ板

ジャンプで一番目立つ板は、ショッキングイエロー地に黒のマークや文字でお馴染みの「FISCHER」。葛西紀明や伊藤有希らもこの板だ。他には高梨沙羅の「ELAN」(エラン、スロベニア)と「fluege.de」(ドイツ)。


「FISCHER」の葛西紀明選手


「ELAN」の高梨沙羅選手

fluege.deは私も最近のW杯のテレビ中継をみて初めて知ったのだが、2010年に設立されたドイツの新興ブランドらしい。
http://m.chiebukuro.yahoo.co.jp/detail/q13113690883

かつてはジャンプの板でも、アルペンの名門ブランドであるROSSIGNOL(ロシニョール、フランス)やATOMIC(アトミック、オーストリア)もよく見かけた(原田雅彦選手ら多くのトップジャンパーがかつてROSSIGNOLを履いていた)が、相次いでジャンプ用のスキー板生産から撤退し、現在は上記の3ブランドで9割以上を占めている印象だ。この3ブランド以外には、青空に雲が浮かんでいるようなデザインの板もたまに見掛けるが、この板は不思議なことにロゴも文字もなく、どこのブランドなのかわからない。
ジャンプは特殊な競技で、一般スキーヤーが存在しないので、作るのはそれほど数が多くない競技者向けだけとなり、量産が利かない。それでも製造するメリットは、一般スキーヤーへの間接的な広告宣伝だけだろうが、その宣伝によって一般向けのゲレンデ用スキーが売れたのか、イメージアップにつながったのか、その効果は測りにくいはずだ。その製造部門が厳しい立場に立たされやすいことは、容易に想像できる。

また、ノルディック複合ノーマルヒルでは渡部暁斗選手が銀メダルを獲得したが、渡部選手はジャンプ、平地を滑るクロスカントリーともに板はFISCHER製。渡部選手を含め、表彰台に立った3人ともクロスカントリーの板はFISCHERだった。クロスカントリー用の板も、ジャンプほどではないが一般マーケットが限られるため、製造メーカーは少ないのだろう。


クロスカントリーではFISCHERと
ROSSIGNOLしか見かけなかった。ROSSIはジャンプからは撤退してもクロカンからは撤退していなかったのだ。



アルペン用は名門が健在

一方、アルペンやフリースタイルのスロープスタイルなどを見ていると、モーグルやジャンプ以上に選手の使用ブランドに多様性があり、かつての名門ブランドも案外健在だ。
ROSSIGNOL、FISCHER、ATOMIC、ROSSI傘下のDYNASTAR(ディナスター、フランス)、VOLKL(フォルクル、ドイツ)、BLIZZARD(ブリザード、オーストリア)などだ。


「ROSSIGNOL」のカービングスキー板


「ATOMIC」のカービングスキー板


「VOLKL」のカービングスキー板

VOLKLはかつて日本では英語読みで「ボルクル」と呼ばれ(DYNASTARは「ダイナスター」だった)、私も小学校高学年~中学時代に履いていた。ただ、米名門ブランド「K2」(ケイツー、米国)やELANは、残念ながらアルペン競技では殆ど見かけなくなった。スロープスタイルでは「K2」を1人だけ見かけたが…。
K2は、1964年に米シアトルでカーシュナー兄弟により設立。ブランド名は創業者兄弟の名前の頭文字と、中国とパキスタンに跨がる世界2番目の高峰「K2」に由来する。1984年のサラエボ五輪スラロームで米国のメイヤー兄弟が金、銀メダルを独占。米国ブランド「K2」は、アルペン界で一躍トップブランドに躍り出た。
実は私も高校~大学時代に2㍍のK2フィル・メイヤーモデルを履いていた。カービングスキー以前のアルペン競技の板は長かったのだ。
その後、K2はフリースタイルでもトップブランドとなり、今ではむしろフリースタイルの板というイメージが強いようだ。米国のスキートレンド自体がフリースタイル隆盛期へと移行していった影響なのだろう。
なお、米国製の板と言えば、ゲレンデではかつて「OLIN」(オーリン)という板も高級ブランドとして人気があった。この板はレースでは殆ど見たことがなく(フリースタイルスキーの草分け?)、“中高年が履く板”というイメージだったが、その後姿を消してしまった。
http://james-bond007.jimdo.com/ジェームズ-ボンドのスキー/?mobile=1

ELANは70年代にはスウェーデンの英雄ステンマルクが履いてW杯で連勝し、一躍国際的ブランドになった。最近はジャンプではメジャーな存在だが、アルペンで見つけるのは難しい。


「K2」のカービングスキー板

みなみに、私が子供だった70年代のジュニアたちの競技スキーの定番は、板がロシニョール、ブーツはLANGE(ラング、ROSSI傘下)、ビンディングはSALOMON(サロモン)とフランスチームのラインナップが定番だった。私はブーツはラングだったが、板はボルクル、ビンディングはMARKER(マーカー、ドイツ)と少数派だった。ビンディングはこのほか、TYROLIA(チロリア、オーストリア)だが、日本では競技用より一般のゲレンデスキーヤーに人気があった印象がある。


かつてスキーレース用ブーツで絶大な人気を誇った「LANGE」

最近は見かけなくなったが、かつてはクナイスル(KNEISSL、本社・オーストリア)も人気があった。1960年に世界最初のグラスファイバースキー "White Star" を開発し、1970~80年代に一世を風靡した名門だ。
72年の札幌五輪でアマチュア規定違反で追放されたオーストリアの滑降の王者カール・シュランツや、76年の地元インスブルック五輪の滑降金メダルの「滑降の帝王」フランツ・クラマーも使用。80年レークプラシッド冬季五輪では27人のメダリスト、うち11人の金メダリストがクナイスルの板を使用していた。しかし、ソチ五輪でも私が見た限りでは、見かけなかった。1980年代と2010年にも破産したらしい。今もブランドとしては存続しているらしいが、恐らく別の企業がライセンスを買い取り、OEM生産しているだけでだろう。
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/クナイスル
http://seesaawiki.jp/w/emiliano/lite/d/%A5%AF%A5%CA%A5%A4%A5%B9%A5%EB

総合メーカー化の流れ

サロモンはその後、板やブーツも製造する総合スキーメーカーになったようで、最近日本でもシェアを伸ばしている。私のようなオールド世代には、サロモンはビンディングメーカーとの認識しかなく、「サロモンの板」には正直、大いに違和感がある。




「S」の大きなロゴが印象的なSALOMON

しかし、スラロームをみていると、欧州の選手を中心にサロモンの板はかなり目立っていた。どうやら、フランスではサロモンが「勝ち組」となり、総合スポーツブランドに進化したようだ。今ではランニングシューズなども作っているようだ。
なお、ソチ五輪ではロシニョールのブーツや、かつて名門ブーツメーカーだったNORDICA(ノルディカ、イタリア)の板もみかけ、度々のけ反った。M&Aによる総合メーカー化がスキーマテリアルの世界でも進んだことがよくわかる。

躍進著しい「HEAD」

アルペンの板ではSALOMONと並んで目に付いたブランドがHEAD(ヘッド、オーストリア)。特に北米勢はHEADが圧倒的に多い。


ロゴの大きな文字が目立つ「HEAD」の板

HEADは元々米国ブランドで、滑降などの高速系に強い板という印象だったが、カービング・スキーに変わって以降はアルペン全般で競技用でも一般ゲレンデ向けでも大きくシェアを伸ばした。今では量産品でもトップブランドになっているようだ。テニスラケットのブランドとして馴染み深い人も多いのではないか。ちなみに私が最近履いているスキーブーツはHEAD製だ。

ポール(ストック)ではLEKI(レキ、ドイツ)が目立つ。私は最近まで知らなかったブランドだ。かつては私も使っていたスケルトングリップのKERMA(ケルマ、ドイツ? オーストリア?)やSCOTT(スコット、スイス)が人気だったが、KERMAは今はROSSIGNOLグループの傘下に入っているらしい。ゴーグルはCARRERA(カレラ、オーストリア/イタリア)、UVEX(ウベックス、ドイツ)が昔からトップブランドで、今もそれほど変わっていないようだ。
http://m.chiebukuro.yahoo.co.jp/detail/q1057209685
http://m.blogs.yahoo.co.jp/kaz_itoh/25898635.html
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