
最近、NHK-BS1で欧州のスキーアルペンの世界選手権を連日放送している。「アルペン」とはゲレンデに設置された旗門をくぐってタイムを競うスキーレースで、旗門数が多い順に回転、大回転、スーパー大回転、滑降と4種目ある。 20日にイタリアのコルティナ・ダンペッツォで行われた女子回転で安藤麻(日清医療食品)が10位に入った。同種目で日本勢過去最高となる「快挙」なのだそうだ。
https://news.yahoo.co.jp/articles/e0da2d4551d1a90afe6800c5be6bbffca00dac53 しかし、スキー競技の花形であるアルペンで日本勢は世界トップで戦える選手の不在状態がかれこれ半世紀以上も続いている。10位に入ったくらいで「快挙」と大騒ぎしているくらいで、若い頃少し齧ったことのある身としても何とも寂しい限りだ。なぜアルペンでは世界で戦える日本人選手が全く出ないのか。
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冬季種目で世界で健闘する日本 同じスキーでもジャンプは1972年札幌五輪70㍍級で「日の丸飛行隊」が金銀銅を独占。94年リレハンメル五輪の男子団体で銀、98年長野五輪で金メダルを獲得。その後もW杯で史上最多優勝を更新し続ける高梨沙羅や「レジェンド」葛西紀明、昨季W杯総合優勝した小林陵侑と、世界で長く力を示し続けている。
クロスカントリー複合では、3季連続でW杯総合優勝し五輪や世界選手権でも何度も優勝した「キング・オブ・スキー」荻原健司や、最近も世界でメダルを取り続けている渡部暁斗。モーグルやスノーボードでも五輪やW杯等の世界大会でメダリストが何人も誕生している。
フィギュアスケートも伊藤みどり、荒川静香、高橋大輔、浅田真央、羽生結弦、宇野昌磨…と五輪メダリストを何人も輩出。スピードスケートでも清水宏保、小平奈緒、高木美帆と五輪金メダリストを継続的に出している。カーリングでもロコ・ソラーレが2016年の世界選手権で銀、前回18年の平昌五輪で銅とメダルを獲得したのは記憶に新しい。
ところが冬季種目でアルペンスキーだけは、1956年のコルチナ・ダンペッツォ五輪の男子回転で銀メダルを獲得した猪谷千春氏(後のIOC副会長)が最初で最後の日本人五輪メダリストだ。93/94W杯滑降で川端恵美が3位入賞し、日本女子アルペン史上初の表彰台に立ったほか、2006年トリノ五輪回転で皆川賢太郎が4位とあと一歩で50年ぶりの五輪メダル獲得に迫ったり、12年W杯回転で湯浅直樹が3位に入ったりしたが、半世紀以上にわたって五輪や世界選手権でメダリストは出ていない。W杯等で入賞者が出るのが精一杯だ。
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バブル崩壊によるスキーブーム終焉と日本メーカーの撤退 日本のアルペン界の長年の不振は、バブル崩壊以来のスキーブームの終焉や、国内のスキー用品メーカーの不振とも無縁ではないだろう。それでもアルペン以外の冬季スポーツ種目で日本は世界でも健闘していることを考えると、やはりアルペン界固有の組織や人材、資金の問題が大きいのではないかと考えざるを得ない。
スキーマテリアルでは、かつて世界的な名門の一つだったヤマハが1997年にスキー事業から撤退。ヤマハがピアノやオートバイでは今でも世界的メーカーであることは誰でも知っている。かつての名門、カザマやニシザワも廃業している。生き残っているのは、ゲレンデスキー専門の小賀坂くらいだ。実はモーグルだけはヤマハなどの技術者を引き継いだ「Hart」や「ID one」が世界を席巻しているのだが、モーグル以外のスキー種目で日本製は全く見かけなくなった。これも寂しい限りだ。
国際的なスポーツ大会で日本メーカー製品を全く見かけない競技は逆にむしろ珍しい。ウェアやシューズではアシックスやミズノ、デサント、ユニクロ…。テニスやバドミントンのラケットはヨネックス。ゴルフクラブはミズノ、ダンロップ、ブリヂストン。野球のクラブやバット、ユニフォームはミズノ。サッカー、バスケット、バレー等のボールは広島のモンテンとミカサ、卓球ラケットはバタフライのタマス、ボールはニッタク……と、スポーツ用品の世界で日本勢の世界における存在感はまだまだ高い。
自動車やオートバイ、化学繊維・素材はもちろん、鉄道車両、航空機、家電製品、医療機器、半導体製造装置、楽器、カメラ、時計…と日本メーカーは今でもありとあらゆる製品分野で世界でそれなりのシェアを確保している。なのに、なぜかスキーマテリアルだけはモーグル競技を除いて日本勢の存在感は皆無なのだ。
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内紛続きのSAJ 全日本スキー連盟(SAJ)は、この記事にもあるような内紛をずっと続けているらしい。
https://toyokeizai.net/articles/amp/392994?display=b
「貧すれば鈍す」と言ってしまえばそれまでだが、それでも同じくバブル崩壊の影響をもろに受けたゴルフ界は競技もメーカーもまだ世界にそれなりに食らいついている。バスケットボールは内紛を収め、二つあった国内リーグを統一し活性化させたのがサッカー界の川渕三郎氏だったように、スキーアルペン界も外部人材による再建が必要なのかもしれない。
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