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国葬となる「安倍大勲位」の功績とは? 

Posted by fukutyonzoku on 22.2022 政治・経済 0 comments 0 trackback

 日本には「死者に鞭打たない」という美しい文化があるが、公人中の公人である政治家、なかんずく首相経験者の業績評価は別であろう。

 「安倍国葬」実施をめぐる論点を整理すると、主に下記の四つに分けられると思う。
 それは、
①そもそも国家元首ではない総理大臣経験者を国葬にすることは適当か(国葬の範囲)
②明確な法的根拠や客観的基準なしに、その時々の政権の裁量で総理大臣経験者を国葬にしたりしなかったりという運用は適当か(国葬の政治利用の是非)
③国会の承認なしに閣議決定だけで国家行事である国葬実施を決定した今回の手続きに正当性はあるか(決定手続きの妥当性)
④仮に上記①~③を全て認めたとしても、安倍元首相の功績が国葬実施に相応しいものであるか(安倍政治への評価)

 今回は④に絞って、安倍政権の8年8カ月を冷静に振り返ってみたい。



◾️プーチンとの個人的関係?

 まずは「得意の外交」(自称)。何か目ぼしい成果はあったのだろうか? プーチンと27回も会談し、「ウラジーミル」「晋三」とお互いにファーストネームで呼び合う個人的な関係を築いたとよく持ち上げられた。また、クリミア侵攻で世界中が経済制裁する中、日本だけはなんと国際社会と完全に逆行する経済協力に踏み切り、プーチンのご機嫌取った。日本は欧米から批判を受けながら、結局肝心の北方領土は返ってきたのか。むしろ、プーチンを増長させ、ウクライナ侵攻の遠因となったとの評価が安全保障の専門家には多い。プーチンを説得してウクライナ侵攻を止めることができたのか? ウクライナ侵攻により北方領土問題は振り出しに戻るどころか、ほぼ解決不可能になってしまったではないか。

◾️「必ず安倍内閣で解決する」と豪語した拉致問題

 また「必ず安倍内閣で解決する」と豪語した北朝鮮の拉致問題は解決したのか。解決どころか一歩も前進しなかった。それでは北朝鮮の核開発を止められたのか。むしろ大きな前進を許した。中国の海洋進出は止められたのか。「自由で開かれたインド太平洋」は実現したのか。沖縄の普天間移設や在沖米軍縮小は?
 結局、どの外交課題も派手にアドバルーンを打ち上げただけで、実際には何一つ実現していないばかりか、むしろ安倍政権下で日本を取り巻く安全保障環境は悪化の一途を辿った。これをすべて安倍政権の責任にするのは酷かもしれないが、少なくとも目に見える成果は何もないというのが偽らざるところではないか。
 ただ一点だけ、集団的自衛権を一部容認する安全保障関連法は個人的には評価していいと思っているが、本来は解釈改憲でなく正々堂々と改憲でやるべきで、法治主義の観点からは禍根を残した。安倍氏の「悲願」だった改憲はもちろん国民投票も結局は実現できていない。

◾️日本を取り戻せたのか

 経済はどうか。アベノミスクで「日本を取り戻す」とこれも大見得を切ったのはいいが、日本経済は復活するどころか一人当たりGDPも生産性も賃金も国際競争力も何もかもOECD最低レベルに衰退してしまった。マーケットに「バイ・マイ・アベノミクス」が好感されたのも最初の数年だけだった。極端なリフレ派を重用し、明らかに禁じ手の財政ファイナンスに踏み込みながら、目標のコアCPIの安定的な2%上昇も名目GDP成長率3%も遠く及ばず、デフレ脱却を果たせなかった。一方、事実上の財政ファイナンスによって世界一巨額の政府債務をさらに積み上げ、日銀の独立性と財務の健全性を奪い、円通貨の国際信任を著しく毀損し、円売りや資源エネルギーインフレに対処できない機能不全に陥らせた。

◾️イノベーションは? 脱炭素は?

 他方、アベノミクスの本丸であったはずの構造改革などの成長戦略(第三の矢)はさっぱり中身が見えなかった。新設した加計学園の岡山理大獣医学部は日本のライフサイエンスを世界最先端に押し上げると信じている専門家は誰もいないし、幼児に教育勅語を暗唱させる森友学園の設立で世界に誇れる先進的な幼児教育モデルを確立したとでも言うのだろうか?
 確かに安倍政権はイノベーションを重視し、産業化に直結しそうな応用研究資金の獲得を大学に競わせたが、成果はほとんどなく、むしろ基礎研究をガタガタにした。
https://www.asahi.com/sp/articles/ASQ7H5Q18Q7DULBH008.html?ref=amp_login&_gl=1*3erin5*_ga*empkejlQQjA1MS1Gd3dmQTN5RGxVNUpVVmVGU1BlMlhIcUJXOFpvV0JuSUd1dnJIbmQwVkZXVUlYMXYtZXNMWg..

 各国の国際競争力ランキングを定期的に発表している機関はいくつかあるが、有名なスイスのビジネススクールIMD(国際経営開発研究所)による「世界競争力年鑑」で、日本は1989~92年まで世界トップだったが、第2次安倍政権が発足した2013年には24位まで低下し、政権最終年の20年にはさらに過去最低の34位にまで凋落した。
https://www.mri.co.jp/knowledge/insight/20211007.html


 脱炭素政策も安倍政権下で進んだか? 再生可能エネルギーは増えたとはいっても日本の発電電源構成に占める再エネ率は水力を入れても20%と世界平均の26%を下回り、中国やインドさえ下回っている。そもそも日本は米国やロシア、中国、欧州、豪州のように国産の原油や天然ガス、石炭が全くないのだから、エネルギー安全保障を確保するためにも純国産エネルギーである再エネは他国以上に力を入れないとおかしい。再エネへの転換度は世界58位、社会のエネルギー効率化と国土の緑化は48位、クリーンエネルギーに関するイノベーションは63位、そして気候政策は55位と、軒並み低評価だ。
https://note.members.co.jp/n/nfffe02fd3ac9?gs=009aefecbe10


◾️世界最悪のジェンダー・ギャップは日本政治の後進性の象徴

 結局、アベノミスクは何の成果もなく、財政金融に修復不可能なほどの大きなダメージを残しただけであり、「大失敗」だったのは明らかではないか。アベノミスクが成功したと考えているまともな経済学者やエコノミストは誰もいないだろう。
 ましてや安倍的保守イデオロギーとは相容れないジェンダー・ギャップ指数(GGI、国際経済フォーラム作成)に至っては、安倍政権下でますます低下し、20年には121位と主要国最低になった。特に「政治」の順位は156か国中144位と世界最低レベル。これは公認権を一手に握っている党総裁の責任と言っていい。日本の政治の後進性の象徴と言ってよい。
https://www.gender.go.jp/public/kyodosankaku/2021/202105/202105_05.html


◾️260億円をドブに捨てた「アベノマスク」

 新型コロナ対応でも「アベノマスク」は記憶に新しい。どう考えても260億円の国費をドブに捨てたようなものだ。私は一度も着けずに配布された2枚とも捨ててしまったが、同じように捨てた国民がほとんどではないか。新型コロナ発生初期、国民にマスクが行き届かない状況を何とかしようという動機は理解できる。ただし、国民の多くから大バッシングを受け、マスクが入手しづらい状況が緩和されても、この人は決して方向転換しなかった。批判されればされるほど意地になってメンツに拘り、裸の王様状態になっているとしか理解のしようがなかった。あるいは安倍支持者の業者を儲けさせたかっただけだろうか。
 それ以前に、旧民主党政権時代から始まったこととはいえ、行政事業レビューという短視眼的な行革によって普段は無駄にしか見えない保健所や感染症医、救急救命医を減らした結果、PCR検査が一向に増えず、医療崩壊を招いた責任は少なからず安倍政権にもあると言える。国産ワクチンがいまだにできないのも、長年のワクチン忌避政策のツケであろう。

◾️日本の右傾化を進め分断を深めた安倍政権

 政策音痴の安倍サポたちがいう「安倍政権の功績」って一体何なのだろうか。
 自民党内を安倍一強体制にして党内左派を干し、官僚たちを人事で恫喝して異論を排し、さらには統一教会を野放しにして家庭崩壊の犠牲者を数多く出しながら無償の秘書や選挙運動員を受け入れ、家族主義的な教義を称賛するビデオメッセージを贈り、復古主義的な愛国イデオロギーを推進して日本の右傾化を進めたーー。これが最大の功績ですか?
 むしろ、民主主義の根幹である法治主義を破壊したことが「安倍一強体制」をつくり「歴代最長政権」になった原因だと考えれば、政権が歴代最長だったことは保守層右派にとっての慶事でしかなく、政治や国民の分断を深めたという意味では日本全体の国益にとっては災厄でしかなかったのではないかとさえ思えてくる。
 外遊好きで、世界中にお友達をたくさんつくったことですか? 外交とは本来、生き馬の目を抜くような国益のぶつかり合いであり、厳しい駆け引きの場だが、この人はひょっとしたら自分の権力基盤を固めるために日本の国益を犠牲にし、相手の国益ばかり尊重していたために世界中の首脳や外交当局から好かれていたのではないか、という疑念さえ湧いてくる。
 いずれにしても、安倍国葬に賛成する支持層の口からでさえ説得力のある具体的な業績が正面から語られるのを聞いたことがない。ゼロどころかマイナスでしかなかったというのが妥当な評価ではないか。
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