消費税増税を批判する議論の中に、「1997年4月の前回消費税増税(3%→5%)の後の景気後退と税収減を見れば、消費税増税は税収を増やさず、むしろ税収減となる」という説を未だによく目にします。事実をきちんと確認すれば錯誤であることが明白なので、その間違いを解説します。
まずは、当時の四半期別実質GDP成長率と需要項目別寄与度の推移がグラフ化されているので、ご覧いただきたい。
http://www5.cao.go.jp/keizai2/keizai-syakai/k-s-kouzou/shiryou/wg1-1kai/pdf/5-1.pdf→8P

グラフを見れば一目瞭然だが、1997年には実質GDP成長率も個人消費も極端に上下に触れている。4月の消費増税直前の2四半期は個人消費も実質GDPも上振れしている。これは明らかに増税前の駆け込み需要の影響だ。増税直後の2Q(4~6月)には逆に個人消費が約2.1%、実質GDPは0.8%下振れした。前期の駆け込み需要の反動減であろう。
注視して頂きたいのは、反動減が見られた次の四半期である3Q(7~9月)には個人消費が、4Q(10~12月)には実質GDPもともにプラス圏に戻っていることである。つまり、消費税増税の影響(実際には消費税率の引き上げだけでなく、税制特例措置の廃止などで計9兆円規模の国民負担増があった)によって消費が大きく落ち込んだのは4~6月の1四半期のみで、7~9月には早くも回復していたことを示している。
さらには、4~6月の反動減をほぼ相殺する規模で増税直前に駆け込み需要が発生。消費増税の個人消費に対するマイナス影響は、引き上げ前の駆け込み需要とちょうど相殺されている。つまり、半年程度のタイムスパンで影響を考えた場合、消費増税に伴うマイナス効果はほとんどなかったことになる。
もちろん、長期的には消費増税による消費者物価上昇に伴うマイナス効果は否定できないが、数%程度の負担増なら、それが個人消費の大幅な減少や景気後退の引き金を引くほどのインパクトを与えるものではない。そのことは、1989年の導入時も97年の増税時にも、直後の一時的な落ち込みがわずか1四半期(3カ月)後には何事もなかったように元に戻っていることで、既に証明されている。
前記の内閣府の資料の7Pでも、97年の消費税増税の景気への影響について「家計調査のミクロのデータを用いた最近の研究によれば、マイナスの所得効果は0.3兆円、対GDP比0.06%」に過ぎないとし、「消費税増税が97~98年の景気後退の『主役』であったとは考えられない」と指摘している。
今では付加価値税(消費税)が20%前後にまで引き上げられている欧米先進国のデータを追跡しても、同様の傾向が確認できる。
日本で3%の消費税が初めて導入された89年4月にもほぼ同じことが起きている。もっとも、導入後の90年代はまだバブル経済の余韻を引き摺っていた。つまり、株式や不動産といった、いわゆる資産バブルは89年末~90年をピークに崩壊したものの、企業は90年以降も雇用や賃金を維持し続けたため、雇用者報酬は90年代を通じて緩やかながら上昇し続けた。このため、消費は資産価格や企業業績ほどには落ち込まず、比較的堅調に推移した。
http://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je11/pdf/p01032_1.pdf →94Pのグラフを参照

それでは実質GDP成長率が、97年夏以降の2四半期のプラス推移を経て、翌年1~3月、さらには同7~9月と大きく落ち込んだのはなぜだろうか? それは、97年夏のタイに端を発するアジア通貨危機と、それに続く世界的な金融危機の影響に伴う不況が原因なのは明らかだ。
日本でも97年秋以降、アジア通貨危機が急激な信用収縮となって波及し、11月に三洋証券が経営破綻した。日銀による大量の流動性供給にもかかわらず、金融機関同士が互いに疑心暗鬼に陥り、短期資金を融通し合うコール市場が崩壊。北海道拓殖銀行や山一証券が連鎖破綻し、まさに泥沼の金融恐慌の様相を呈した。
実体経済面でも、金融機関の貸し渋り、貸し剥がしが横行。建設業や不動産業、中小企業などを直撃し、企業倒産が急増した。夏にはロシア、ブラジルが財政危機に陥るなど、金融危機は世界的な広がりを見せ、我が国でも98年秋~年末にかけての長銀、日債銀の破綻に繋がっていく。
橋本龍太郎内閣に代わって登場した小渕恵三内閣は、橋本内閣の財政再建や構造改革(サプライサイド改革)を重視する新自由主義的経済政策と決別し、「景気対策」と称して所得税、法人税の大幅減税などを実施した。99年から所得税2.9兆円、法人税1.7兆円をはじめ、国・地方を合わせて総額6.6兆円規模の減税というバラマキをやったのだ。さらには、その後の小泉純一郎政権時代には、国から地方への3兆円規模の財源移譲も実施している。これらの政策的な減税の影響を無視して「税収が落ち込んだのは消費税増税の影響だ」と言い張るのは、為にする議論である。
98~99年の景気後退とその後の法人税、所得税の減少は、これら金融危機とそれに伴う不況、さらには景気対策と称して小渕内閣が実施した所得税、法人税減税やその後の地方への税源移譲が原因であることは明らかだ。
http://www.mof.go.jp/tax_policy/publication/brochure/zeisei/04.htm 消費税増税による消費の落ち込みが議論されていた少し後に、タイミングが悪く連続的な金融危機が発生したため、感覚的に関連付けられて論じられることが多いのだが、統計を仔細に点検すれば、実際には消費増税後の消費、景気の一時的な落ち込みと、その後の景気後退との間には半年ほどのタイムラグがあることがわかる。当時、消費税増税を政治決断し、その後の不況の責任を取る形で退陣した橋本龍太郎元首相は「(大蔵官僚に?)騙された」と語ったと報道されているが、橋本氏自身が勘違いしていたのだ。騙されたのではなく、単に運が悪かっただけである。
以上、「消費税増税が消費の落ち込みと不況を招き、総税収はかえって落ち込んだ」との評価は完全に間違いであることは明白である。むしろ、税収が安定している消費税の税収増が、不況や景気対策としての減税による法人税、所得税の落ち込みの一部を下支えし、その後の財政悪化のスピードをいくらか遅らせたと評価してもいいくらいだ。
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こんにちは。
増税は税収減の主役でないとい理由で、
実質GDPへの影響の無さを絶対の根拠にされていますがそれはなぜですか?
そこを教えてください。
1997年を境に名目GDPとデフレータは下がり続けています。ここを完全に無視している理由についても詳しく教えてください。
”消費税増税は税収を増やさず、むしろ税収減となる”という説に自分も踊らされているので、そこのところお願いします
コメントに最近まで気づきませんでした。今更…かもしれませんが、返答を新着記事としてアップしました。よかったらご覧ください。
返答が大変遅れ、申し訳ありません。
全然理由になっていませんよ。
97年の税収を一度も上回っていない理由付けとしては弱過ぎます。
単なるコジツケです。偏った見方です。
東大のの御用学者のようです。
どう考えても消費増税が実際に景気悪化の主犯と証明されましたよね。今年。
前回の増税とその後の不況を無理失理結び付けることこそ、まさに「コジツケ」で偏った見方ですw 消費が夏までに回復していたことは、統計上明らかなのですから。
あなたの統計は一般とは異なるのですか?
金融緩和の好影響を上回る消費増税の悪影響を認めないのは酷いですね。
池田と小黒と小幡くらいですよ。伊藤元重とか土井とかのクソ教授もですが。
窓際寒すぎるんじゃないですか?
熱でもあるんでは?
消費は回復したんですよね?これは嘘ですか?私の目が悪いのでしょうか?
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150217-00000109-mai-bus_all
<14年家計調査>世帯当たり支出月25万円 3年ぶり減少
毎日新聞 2月17日(火)20時20分配信
総務省が17日発表した2014年の総世帯の家計調査によると、1世帯当たりの消費支出は1カ月平均25万1481円で、物価変動の影響を除いた実質ベースで前年比3.2%の減少となった。減少は東日本大震災の影響を受けた11年以来3年ぶりで、減少幅は06年(同3.5%減)以来8年ぶりの大きさだった。昨年4月の消費増税後の反動減の影響が長引いており、景気持ち直しのカギとなる個人消費は力強さを欠いたままだ。
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