岸田文雄内閣は今年4月に新たに「こども家庭庁」を設置し、国の関連予算を倍増させて「次元の異なる子育て支援」を実施する方針だ。手厚い支援策で少子化を食い止めているフランスや北欧のほか、国内でも独自の子育て支援策で人口増や出生率上昇の成果を出している自治体もある。
これらの成功例を見ると、一時的な出産給付金や子供手当などの直接給付よりも、保育環境整備や保育料、教育費、医療費の無料化、不妊治療支援などのサービス支給の方が効果が大きいようだ。海外の例を見ると、経済的支援だけでなく、夫を含めた育休取得期間の長さや取りやすさなど法制度面を含めた労働環境整備も大きな鍵を握っていることが分かる。
◾️
出生率2.95「奇跡の過疎の町」 岡山市から車で2時間。岡山県北東部の奈義町は鳥取県境の山間にある人口約6100人の小さな町だ。過疎化に悩まされてきたが、2002年ごろから町を挙げて子育て支援策を推進したことで若い夫婦の流入が増え始めた。19年の出生率は全国トップクラスの2.95(全国平均1.36)を達成。保育料、給食費、教材費、医療費など、子供が生まれてから高校を卒業するまで町が子育て世帯を全面支援する。
子供の医療費は高校卒業まで無料。町内に高校がないため、高校生1人当たり年13万5000円を町外の高校に通うバス代などに充てられる就学支援策もある。若者の定住を促すため、賃料の安い若者向け賃貸住宅も町内のあちこちにあり、女性の不妊治療まで支援している。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00342/110400063/◾️
中核市で人口増加率トップ明石市 神戸から西へ約24kmにある典型的な埋没都市だった兵庫県明石市は2020年まで9年連続で人口が増加し、全国の中核市(62市)の中で人口増加率トップを達成。2010~20年で合計特殊出生率も1.48から1.62に上昇した。
その秘密は、①子供の医療費②第2子以降の保育料③0歳児の見守りサービスと紙おむつ・粉ミルクなどの配達支給④中学校給食費⑤公共施設の入場料ーーの「五つの無料化」などの充実した子育て支援。「子育てしやすい街」としてファミリー層の転入が続いているのだ。
21年1月には「ファミリーシップ制度」も開始。正式に結婚していなくてもパートナー関係にある成人カップルと、2人と一緒に暮らす子どもを「家族」と認める制度。性的マイノリティーや同性同士のカップル、あえて法律婚を望まないカップルなども子育て支援や行政サービスを差別なく受けられるようにした。
https://toyokeizai.net/articles/-/600515?display=bhttps://president.jp/articles/-/65668?page=1https://www.city.akashi.lg.jp/shise/koho/citysales/kosodate/index.html◾️
全国の市で人口増加率トップの流山市 全国の市の中で人口増加率4年連続トップの千葉県流山市。2005年につくばエクスプレス(TX)が開通し、市内に「南流山」「流山セントラルパーク」「流山おおたかの森」の3駅が出来たこと、東京・秋葉原まで20分の近さ、高島屋の子会社が再開発した緑の多い洗練された駅前商業施設などもあるが、ファミリー層を惹きつけている理由は同市の子育て支援策が大きい。
認可保育園を2010 年度から10年間で17園から77園と4.5倍増、定員数も1789人から6929人と3.9倍に拡大し、21年4月に待機児童ゼロを達成。主要2駅に「駅前送迎保育ステーション」を設置。バスで子供たちを駅前から保育園まで送迎し、都内などに通勤する親が園まで送り迎えしなくて済むようにした。また、学童クラブ児童の路線バス帰宅(駅前送迎)や、夏休みに4年生までの児童の居場所として小学校を解放し、一日1000円で預かって読書や体験学習などを行う支援策も実施。その結果、同市の合計特殊出生率は2018年に東京通勤圏でトップクラスの1.67を記録した。
https://mama.chintaistyle.jp/article/nagareyamashi-kosodate-di/#:~:text=流山市は、2021年,を目指してきました%E3%80%82
https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/meeting/taikou_4th/k_3/pdf/s3.pdfhttps://president.jp/articles/-/64793?page=1 ただ、市町村単位の独自支援は「周辺自治体から若いファミリー層を奪っているだけで、国全体の婚姻率や出生率を上げないと意味がない」との批判もある(とはいえ、こうした支援は若い夫婦がもう1人産もうとするインセンティブになる可能性は十分ある)。それでは、国全体の出生率を上げて人口減少を食い止めている海外の国は何をやっているのだろうか。
◾️
男女格差の小さい国は出生率が高い 日本では「少子化は女性の社会進出の結果。だから男女平等はいけない」という時代錯誤の保守思想や政治勢力が強い。伝統的家庭観を重視するが、要は女性を家に縛り付け、もっぱら子供を産み育てる役割を担わせようとする男性中心の考え方だろう。しかし先進国では、そうした儒教的な家庭観や男女の役割分担意識が強い日韓などは少子化傾向が強い。非婚化や少子化は、女性たちによる「変わらない社会」に対するある種の反乱とも言えよう。
逆に、男女平等度を数値化した「ジェンダー・ギャップ指数」などで男女格差が小さい北欧諸国やフランスは出生率が高い傾向がある。日本は男性の労働時間が圧倒的に長時間で、夫の家事育児時間が諸外国と比べて圧倒的に短い。
フランスの2020年の合計特殊出生率は1.83と欧州連合(EU)内で最も高く、スウェーデンも1.66でその後を追う。両国ともに近年は出生率が下落傾向にあるが、それでも先進国の中では高い。GDPに占める少子化対策への公的支出の割合はスウェーデンが3.4%、フランスは2.9%と、日本(1.6%)の2倍前後に上る。
国立社会保障・人口問題研究所の分析によると、これらの国々は移民が出生率を押し上げている面もあるとはいえ、移民の人口ウエイトは高々1~2割に過ぎないため、国全体の出生率回復の要因を分解すると国の少子化対策の効果の方が大きい(ただし移民は出生率上昇だけでなく、それ自体が人口増加要因となる)。
また、フランスやスウェーデンは生まれてくる子供の半数以上が婚外子だ。それでも子育てしやすいのは、婚外子を差別しない法制度が整っているからだ。子育てに対する経済的支援だけでなく、法制度面でも結婚・出産のハードルを低くしているのだ。出産・育児休暇の取りやすさなど企業の環境整備も重要だ。
フランスには共同生活するカップルなら同性、異性を問わず、法的婚姻関係にあるカップルと同等の権利を認める制度(PACS=準結婚・同棲婚制度:筆者注)がある。子どもは家族形態にかかわらず平等に扱い、次世代を担う「公共財」として社会全体で支えるという思想がバックボーンになっている。「家族形態の多様性を認めないと子どもは増えない」(藻谷浩介・日本総研主席研究員)。
フランスでは生後2カ月から保育所に預けられ、利用料は親の所得によって変わるが、低所得世帯は無料。3歳から義務教育が始まるため、基本的に無料で子供を長時間「学校」に預けられる。不妊治療支援も充実しており、人工授精は6回まで、体外受精は4回まで保険適用される。不妊治療で生まれた子供は全体の3%に上る。
スウェーデンもフランスと同じように国家の子育て支援が手厚い。特徴は、出産後480日間の育児休暇が両親に与えられる点だ。そのうち390日間は所得の8割が支給される。最初の6カ月間は妻が取得し、その後は夫が取るといった取り方が可能だ。
スウェーデンの自動車メーカー、ボルボ・カーは21年、全世界の約4万人の従業員を対象に24週間の育休制度を導入した。基本給の8割を支払う育休であり、3年の間に分割取得もできる。スウェーデンでは国の制度があるが、米国や中国では公的な制度が充実していないため、ボルボの制度を世界に広げて従業員のロイヤルティーを高め、優秀な人材を確保する狙いがある。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00342/103100060/
- 関連記事
-
スポンサーサイト
trackbackURL:http://fukutyonzoku.blog.fc2.com/tb.php/174-41257a8b