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世界で始まる穀物争奪戦~日本は農業全体を失う危機に

Posted by fukutyonzoku on 22.2023 公共政策 0 comments 0 trackback
 昨年11月27日に放送されたNHKスペシャル選「混迷の世紀 第4回 世界フードショック~揺らぐ『食』の秩序~」から。

 番組によると、ロシアのウクライナ侵攻以来、世界最大の小麦輸出国であるロシアは、欧米の経済制裁に加わらない中国や中東への穀物輸出を増やし、友好関係を深めている。

◾️世界26カ国が食料輸出を禁止・制限

 穀物輸入で国内トップのJA全農。子会社の全農グレインが取り扱う穀物輸入量は、日本全体(約3000万㌧)の6割を占める年間約1800万㌧。同社は40年にわたり北米で小麦や家畜飼料用の子実コーンを買い付け、日本に安定的に供給してきたが、ロシアのウクライナ侵攻以来、思うように調達できない事態に。ここ数年、記録的な熱波が続いて生産が減っていた中でウクライナ戦争が起こり、農家がさらなる価格高騰を見越して売り控えるケースが増えている。
 また、自国内供給を優先して輸出規制する生産国も増えている。中国に次ぐ世界2位の小麦生産国であるインドも小麦輸出を停止。パーム油の生産・輸出で世界の6割を占めるインドネシアもパーム油の輸出を止めた。食料輸出を禁止したり許可制にして輸出制限している国は26カ国に及んでいる(昨年10月末時点)。世界中で食料争奪戦が始まっているのだ。


◾️ブラジルの穀倉地帯に先行投資する中国

 全農グレインの川崎浩之副社長は穀物調達先を南米にも広げようと、ブラジルを視察。将来は世界一の穀物輸出国になると見られるブラジルには、すでに多数の中国企業が進出しており、圧倒的な存在感を示す。2021年に中国がブラジルに行った農業インフラ投資は投資国中最大の約57億㌦(約8000億円)。中国の強みは資金力に加えて、化学肥料の生産大国であること。特にウクライナ戦争以来、輸出制限している化学肥料などの農業資材を大量に安く供給し、生産した穀物を大量に買い上げる点も強みだ。すでにブラジルから輸出される大豆の7割が中国向けで、今後は飼料用トウモロコシの中国向け輸出も増えていくと見られる。






 川崎副社長はブラジル最大手の穀物企業であるアマッジ社を訪問。取引を持ち掛けたが、創業者一族で元ブラジル農相のブライロ・マッジ氏は「日本は食料生産が少ないのに植物検疫機関が非常に厳しく、その要求に応えられないこともある。日本はブラジルの食料をもっと買わないといけないと言いたい」と語る。つまり、日本は自国で食料生産を怠っているのに世界一厳しい検疫で輸入食品をブロックして選べる立場だといつまで勘違いしてるんだ、と揶揄しているのだろう。かつて世界一だった日本の購買力は、もはや中国には太刀打ちできない。


 川崎副社長は「ナショナリズムが台頭し、自国の消費需要を優先する動きによって、日本は食料安全保障という観点では極めて危ない立場になってくる」と危機感を募らせる。一方で「ブラジルでは中国資本が牽引するチームがかなり出来上がってしまっているが、その中にいま入り込まないと手遅れになってしまう」とも語る。
 「ナショナリズム」とはいうが、世界が食料危機に陥れば、各国政府は自国民への食料供給を優先するのは当たり前のことだろう。


◾️肥料や飼料高騰に苦しむ国内生産者

 一方、日本の生産現場でも輸入に頼っている化学肥料や畜産飼料が円安も加わってウクライナ侵攻前の約1.5~2倍に高騰。生産コストが跳ね上がり、コスト上昇分を販売価格に転嫁できずに苦しんでいる。
 養鶏では輸入飼料(飼料用トウモロコシ)代が生産コストの6割を占める。福島県伊達市で月15万羽、300㌧の鶏肉「伊達鶏」などを出荷している大規模養鶏農家の伊達産業は、飼料代高騰によって毎月数千万円の赤字に陥っている。生産すればするほど赤字が膨らむため、大手ファストフードチェーンに30年もブロイラーを出荷してきたが、価格転嫁を認めてくれないために大規模受注を断り、生産縮小を余儀なくされた。
 社長の清水建志さんは「この飼料価格高騰は事業継続に関わるほどの問題。このままでは苦しいが、これ以上生産者として何ができるのか、どう乗り越えていけるのか……」と苦悩を滲ませる。日本農業協会による昨年5月の調査では、畜産農家の72.2%が「資金繰りが苦しい」、94.8%が「(飼料代高騰による生産コスト上昇を)価格転嫁できない」と回答している。


 また、日本は農業生産に欠かせない化学肥料もほぼ輸入に頼っているが、これもロシアのウクライナ侵攻以来、国際価格が高騰。ロシア自身が化学肥料の輸出大国であり、輸出停止・制限しているロシア、ベラルーシ、中国の3カ国で世界生産の4割を占めている。


 東北最大規模の120㌶でコメを生産する宮城県角田市の農業法人「角田健土農場」。年間20㌧の化学肥料を使用しているが、肥料代は過去1年で2倍近くに高騰。コメ価格は低迷が続き、ウクライナ侵攻前から経営は厳しいかったが、肥料高騰が追い討ちとなり、来年度は2000万円近い赤字になる見通しという。小野良憲社長は「これまで経営努力はしてきたが、もう経営維持できないところまで来てしまった。しっかりと生活できない産業というのは今後、衰退していくしかないのかな」と肩を落とす。


 農林中金総研は、農業資材高騰に対する国の対策がない場合、コメ農家の93%は赤字に陥ると試算している。
 ただ、全農は同じ宮城県大崎市の農家と共同で、東京ドーム20個分に当たる100㌶で飼料用トウモロコシの実証実験をスタート。代替飼料として米粉の生産にも力を入れ始めている。


◾️「農業を魅力ある産業に」と訴える“欧州の知性”

 フランス歴代政権の顧問や欧州復興開発銀行の初代総裁も務めた経済学者・思想家のジャック・アタリ氏はこう語る。
 「もし私たちがすぐに行動しなければ、15億人以上に影響が及ぶ人類史上最大の食料危機になるかもしれない。もともと異常気象で食料が底を突きかねない状況の中、今回の戦争がダメ押しとなった。大惨事に至るレシピは揃っている。過去4000年、世界で起きた戦争は常に食料不足が関係していた。飢餓に陥ると人々は政府に不満を持つようになり、徒党を組んで暴動が頻発するだろう」
 「『命のための経済』を選択する時が来ている。日本はまず農業という仕事が魅力的であるという事実をつくり出すべきだ。社会的地位の面でも収入の面でも農業という産業を魅力的にしなければなりません。そうしなければ農業全体を失う最大の危機に直面するでしょう。今までの食のあり方も自ら賄う方向に考え直すべきでしょう。食料を『健康と文化の基礎』として捉え直すことを社会全体が求められています」


 今後、世界の食料危機はますます深まり、円安傾向や人口減少もあって日本の購買力が高まらないとすれば、日本は世界で中国と競って穀物輸入を増やすのではなく、国内で大規模生産法人が儲かる仕組みを構築し、補助金が増えたとしても国内生産を増やし、食料自給率を高めていく方向が賢明だろう。
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