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「軍備増強は戦争の危険を高める」という左派の勘違い

Posted by fukutyonzoku on 06.2023 安全保障 0 comments 0 trackback
 共産党の小池晃参院議員は先週2日の参院予算委で、敵基地攻撃のための地上配備型の長射程ミサイル(スタンドオフ・ミサイル)について「どこに配備するのか」と質問。さらに、「総理は『スタンドオフ防衛能力の強化により、我が国は全国のさまざまな地域から重層的に相手方艦艇や上陸部隊を阻止・排除する能力を保有する』と(以前)答弁している。つまり、全国各地に長射程ミサイルを配備するんですよ」と迫ったが、政府は終始、「具体的な配備先はまだ決まっていない」と逃げたが、国家防衛戦略及び防衛力整備計画では、5年後(2027年度)までに70棟程度のスタンドオフ・ミサイル用大型火薬庫を整備し、その後5年間でさらに60棟の整備を計画している。
 小池氏は「沖縄の玉木デニー知事も敵基地攻撃能力を持つミサイル配備については、憲法上の問題もあり『抑止力の強化はかえって地域に不測の事態を招くのではないか』と明確に反対している」「全国に130カ所も大型弾薬庫を作るということ。来年度予算でつくる陸自大分分屯地はすぐそばに団地や大分大学もある。京都の祝園(ほうぞの)分屯地もベッドタウンの中にある。ウクライナ戦争でも弾薬庫が真っ先に狙われた」と敵の優先攻撃目標になる懸念を強調した。
https://youtu.be/dptZptSlcTk

◾️軍事バランスの不均衡が戦争を招く

 この国会でのやり取りに象徴されるように、軍事的な抑止力については、保守と左派との間に根本的なすれ違いがある。保守は軍備増強こそが敵国に武力行使を思いとどまらせる、つまり抑止力を高めると考えるのに対し、左派は逆に軍備増強は敵国との緊張を高め、戦争の危険を高めると考える。
 しかし、「軍備増強は緊張を高め、戦争の危険を高める」という論理は、仮想敵国との戦力差が均衡状態以上の状態にあるのに、その差が開く時にしか成立しない論理ではないか。劣勢にある側が軍事力を高めることは、均衡に近付ける努力であり、戦争抑止に繋がる可能性が高いと考えるのが安全保障論の常識だろう。軍事力や国力が対等以上の相手やグループ(同盟関係)との戦争は負けるリスクが高く、仮に負けなくても大きな損害を受けるリスクが高いため、どの国も避けようとするものだ。
 長年にわたり軍備増強を続け、領土領海拡大の野心を隠そうともせず、周辺諸国との軍事的緊張を高めてきたのは明らかに中国側である。中国は世界最速の経済成長と軍事力増強を背景に、パラセル(西沙)諸島やスプラトリー(南沙)諸島などベトナム、フィリピン、マレーシアなどと領有権を争っている南シナ海の岩礁を一方的に埋め立てて人工島を軍事要塞化し、南シナ海の自由航行を脅かしている。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00499/091300001/

 東シナ海でも日本の尖閣諸島への領海侵犯を繰り返し、日中中間地帯の大陸棚でガス田開発を一方的に進めている。台湾に対しても「一つの中国」政策を強圧的に主張し、武力併合の野心も隠さない。
 対する日本は、低迷するGDP対比で1%の防衛費を維持してきたことで、相対的な軍事費の伸びは抑えられ、軍事費では1990年代後半に、GDPでも2010年に中国に追い抜かれて以来、経済力も軍事力もその差は開く一方だ。防衛省防衛研究所も、兵力が3倍以上に開くと攻撃を受けやすくなるとされる「攻者3倍の法則」を強調している。今では中国のGDPは日本の4倍、軍事費(防衛費)は6倍以上、常備兵力の差は10倍近い。もはや日本は単独では中国の脅威から自国を守れないことは残念ながら明白だ。
https://digital.asahi.com/sp/articles/ASQ505GRLQ50UTFK00S.html?pn=4&unlock=1#continuehere
https://www.yomiuri.co.jp/politics/20220930-OYT1T50038/


 米国の国力、軍事力は依然として世界一とはいえ、中国との差は縮まっており、AIやサイバー、宇宙の軍事技術ではすでに米国を凌いでいるとの見方もある。またウクライナ戦争や依然内戦が続くイラク・シリアなどもあり、米国は軍事力を台湾防衛だけに割くこともできない。
 安倍晋三元首相が「自由で開かれたインド太平洋」を訴えて中国の海洋進出に警鐘を鳴らし、日米印豪4カ国による外交・安全保障の協力体制「クアッド」(Quadrilateral Security Dialogue=日米豪印戦略対話)に繋がったのも中国の海洋覇権拡大の結果であり、英国の最新鋭空母クイーン・エリザベスを中心とする空母打撃群や哨戒船2隻の常駐・パトロール展開、日本との戦闘機共同開発なども、中国の脅威増大に対する西側の包囲網強化の一環だ。東シナ海防衛の当事国であり、台湾防衛では米軍の最前線基地となる日本も対中包囲網への軍事的貢献が求められているのは当然だろう。
https://www.cnn.co.jp/world/35190823.html
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR14DPM0U1A910C2000000/

◾️自衛の範囲を超えている中ロの軍事行動

 中国にとっては「突出した軍事力を持つ米国の脅威に対する自衛措置だ」というかもしれない。劣勢にあった中国側が軍事バランスの均衡を目指して防衛力を強化するだけなら、非難される謂れはない。しかし、中国が実際に行なっていることは自衛の範囲を逸脱し、国力・軍事力の急拡大を利用して領土や支配圏の拡大を目論んでいるとしか見えないことが問題なのだ。
 また米国は過去、世界中で武力介入を繰り返してきたとはいえ、少なくともそれは覇権主義的な領土領海拡大を目的にしたものとは様相が異なる。イラク戦争については石油利権が目的との見方はあるにせよ、基本的には途上国の内戦を機に勃発した米ソ(ロ)の代理戦争であり、冷戦終結後は自衛目的で始まった対テロ戦争であろう。
 ロシアや中国の最近の露骨な軍事行動は明らかに自衛の範囲を逸脱しており、集団的自衛権行使とも無縁だ。北朝鮮の金正恩政権も経済制裁を受けながら核開発とミサイル開発を続け、ついに核ミサイル保有国となってしまった。プーチンは北方領土の北側の国後、択捉でも軍事基地化や装備近代化を進めており、最近は北海道沖や東シナ海でも中国との共同軍事訓練も実施している。
 一方、米国は民主党のオバマ政権の8年間(在任:2009年1月~17年1月)で「米国は世界の警察官ではない」としてむしろ軍事費を削減してきた。当時は沖縄の海兵隊をグアムに引き揚げる計画もあった。次の共和党・トランプ政権は「アメリカ・ファースト」を打ち出しながら中国の軍事的脅威の高まりを強調し、軍事費を再拡大させた。その方向性は現在の民主党・バイデン政権下にも引き継がれている。中国の脅威に対する危機感は党派を超えて米議会内でも一致した見方になっているからだ。左派が主張するように、安倍ートランプ以来の日米軍事力強化がこの海域の緊張を高めているという見方は事実からほど遠く、むしろ過去10~20年のレンジで見れば緊張を高めてきたのは中国やロシア、北朝鮮の方である。米国は中ロなどの脅威の高まりに対してやむを得ず軍備を再拡大し、同盟国にもそれを求めているという見方が妥当だろう。
 日米が何もしなければ、中国は台湾侵攻や尖閣諸島の占拠といった武力侵攻に踏み切る可能性が高いとの見方が強まっている。真偽は不明だが、米軍最高幹部や米中央情報局(CIA)首脳らは「習近平は2027年までに台湾を武力攻撃する意思を固めている」との見方を米議会などで繰り返し証言。西側は中国の「現状変更の野望」を思いとどまらせるために、この地域で崩れかけている東西軍事バランスを均衡させようと、軍拡や軍事協力強化を急ぎ、戦争を抑止しようとしている。誰も中国を占領したり抹殺しようしているわけではないことは明らかである。
 日本も長射程のスタンドオフ・ミサイルによる艦艇を含む敵基地攻撃能力(反撃能力)を保有しようとしているが、「敵基地攻撃を行う場合の条件が曖昧であり、憲法や専守防衛原則に違反する可能性がある」と野党は批判する。しかし、そもそも先制攻撃は違憲だという以前に国際法違反の侵略行為に当たる。岸田首相は「専守防衛は堅持する」と明言しており、将来にわたって日本政府が専守防衛を逸脱し、プーチンのウクライナ侵攻と同じ轍を踏むとも思えない。事後に「敵の攻撃が差し迫っていた」という明確な証拠を国連に提出できない限り、先制攻撃は不可能だし、国際的にもそのハイリスクの攻撃判断を日本の政治家(首相)が行う無謀な蛮勇があるとも思えない。
 また、交戦状態に入った後、現状のミサイル迎撃システムだけで敵のミサイル攻撃を100%防ぐことは技術的に不可能だ。ウクライナを見ればわかるように、ミサイル迎撃システムと敵基地攻撃能力はセットで保有していないと、ミサイルは撃たれっぱなしになってしまう。相手から反撃を受けないと分かっていれば、そのこと自体が相手に開戦を思いとどまらせる抑止力を弱めてしまう。

◾️コスタリカの「非武装中立」は政治的フェイク

 「軍備増強は敵国との緊張を高め、戦争の危険を高める」という左派の思想の延長線上にあるのが「非武装中立」だろう。軍備が敵との緊張を高め、戦争の危険を高めるのであれば、そもそも軍備がなければ敵との緊張を高めず、戦争の危険はなくなることになり、非武装こそが戦争を抑止する最善の戦略ということになりそうだが、現実に非武装で安全保障を確保している国は歴史的にも存在しない。
 一部の左派は「非武装中立」の実例としてコスタリカを挙げ、理想化して語るが、コスタリカは実際には米国を中心とする北中南米の軍事同盟である米州機構(OAS)の加盟国であり、沿岸・国境警備隊や特別警察が銃火器を保有している。たびたび国境紛争が起きている隣国ニカラグアの軍事費の3倍の予算を実質的な国防に割いているとも言われ、コスタリカの対外的な「非武装中立」宣言は政治的フェイクと言ってよい。武力や国力の弱いところが侵略を受けるのが冷厳たる世界の歴史的現実であり、だからこそ弱い国は強力な集団安全保障体制に入って自国の安全保障を確保している。
 歴史的に武力侵略を受けたケースは、昭和天皇が無条件降伏を宣言し武装解除された後の満州や北方領土をソ連が侵攻した例もそうだし、1990年にイラクのサダム・フセインがクウェートに武力侵攻し6時間で全土を占領したのは、クウェートの軍事力が貧弱で米国も介入しないとフセインが見誤ったからだ。中国が南シナ海で領土未確定の岩礁を次々と埋め立てて軍事要塞化しているのは、紛争相手国のフィリピン、ベトナム、マレーシアなどの軍事力が弱く、米国や英国などとの同盟関係が弱いことも一因だ。ロシアのクリミア占領やウクライナ侵攻も、ウクライナがNATO加盟国ではなく、軍事的にも弱く、国民も抵抗しないとプーチンが見誤ったことが原因だろう。
 戦争や軍事紛争の全てが軍事バランスの不均衡を原因として起こったわけではないとしても、冷戦時代は米ソの「核の均衡」が抑止力として働き、第三次世界大戦を防いだ最大の要因だったとの見方が安全保障の専門家の間では常識的な見解だ。
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