「勇者」さんから三たび、反論や質問を頂き
ま
した。これ以上反論するのはあまり意味がない気もしましたのでしばらく放置しておりましたが、勇者さんの熱心さにも敬意を表し、再々反論しておきます。
>戦後の供給不足という特殊事情の例を挙げて金融政策が間違っていたというのは無理がありますよね。
→先に紹介した伊藤正直教授の論文を読めばわかるはずですが、戦後ハイパーインフレの原因は、①戦中の日銀引受による戦時国債乱発とによる財政破綻②戦中戦後の物資や生産力の不足③日銀引受による復金債による復興資金供給ーー等の複合インフレでしょう。供給不足(②)だけが原因あるいは主因とするのは無理がありますし、学術論文でそのような評価分析は見つかりません。
金融政策が「間違っていた」かどうかは評価によりますが、1958年日銀調査局文書では、③についてより安定したペースで復興政策を行えば復興インフレはもっとマイルドになったはずで、その後の日本経済もより健全なものになっていたはずだーーと当時の日銀の金融政策を反省しています。主に復金債の日銀引受のことを指しているのだと思われます。
>物価の異常な上昇は1946年から起こっています、対前年比で通貨の大量発行が行われるのは1947年です。(日銀 戦後ハイパーインフレと中央銀行資料)
→事実誤認です。同資料の「図5 通貨発行高」を前年比で見る場合は注意が必要です。47年にグラフが上に跳ね上がっているのは、その前年に金融緊急措置(預金封鎖、新円切り替え、増税等)による急激な引き締めがあったために、その反動増でグラフが飛び跳ねているだけです。前月比で動きを細かくみれば、発行高が最も増えているのは45年央の終戦直後で、46年初頭の一時的な急減を経て本格的な復興期に入り、49年(ドッジ・ラインによる引き締め)に向けて徐々に落ち着いていったーーというのが、妥当な見方でしょう。
なお、この資料では45年以降のデータしか出ていませんが、日銀は戦中から政府が乱発した戦時国債を引き受けまくっていたので、通貨発行量の急増は戦中から始まっています。軍備増強と国債の日銀引き受けが始まった1932年の「高橋財政」以降、通貨供給量の増加につれて物価も上昇していった、というのが通説です。
>マンデル=フレミング効果について触れないのは不思議ですね。何故為替介入がインフレ退治になるのか理解できません。円安だと不況になって円高だと景気よくなるのですか、インフレは国内の需要と供給のバランスが崩れて起こる物です。国内の消費者がドルで買い物するのでしょうか?GDPの6割は国内消費です、為替変動で慌てるのは輸出入業者で為替変動で儲かる業種もあれば損をする業者もあるので為替変動でインフレ退治は無いでしょう?円高誘導でマネーを吸い上げてインフレ対策ですか、効率悪すぎです。固定相場で金融対策は効かないのはマンデル=フレミングの法則でおわかりの筈です。それとも円高誘導が財政出動と同じ効果を持つとお考えですか?
→はっきり言って支離滅裂です。マンデル=フレミングはひとまず置いておいて、変動相場制下で通貨価値が下落すれば(円なら円安)、輸入物価上昇を通じて国内物価が上昇し、反対に増価(円高)すれば、輸入物価の下落を通じて物価が下がることは、イロハのイです。学部教養課程レベルの「経済学の基礎」からやり直してください。黒田日銀の量的緩和の隠れた狙いが円安誘導なのは明らかで、アベノミクスが始まってからの物価上昇要因の大部分は、国内需給要因ではなく、円安効果によるものです(内閣府や主要民間シンクタンクから同趣旨の要因分析結果がたくさん出ています)。反対に円高ならデフレになります。「為替変動でインフレ退治は無いでしょう」って、普通にありますよ。為替操作の「方法」が金融政策(金融緩和や引き締め)か為替介入か、の違いがあるだけです。
さて、マンデル=フレミングです。あなたが盛んに言及している(らしき)ことは、固定相場制下の金融政策や変動相場制下の財政政策は「無効」とされていることのように見受けられますが、マンデル=フレミングモデルというのは、①国際資本移動が完全に自由②資本移動は金利のみで起こる③経常収支は内外の産出量・為替レートのみで決定される④資本収支は自国と他国の金利差によってのみ決定されるーーという、単純化した前提に立つ「理論モデル」に過ぎません。現実の政策分析に用いるには開放小国の短期分析くらいにしか役に立たない代物です。
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/マンデルフレミングモデル
理論が「間違っている」というより、そもそも理論モデルというものは様々な仮定や前提条件の枠を嵌めないと成立しないものです。実際の経済が一つの理論モデルだけで動くことはまずありません。現実を構成する様々な要素や原理の一つを説明しているに過ぎないからです。
考えてもみてください。なぜ現実の世界では変動相場制下の財政政策も、固定相場制下の金融政策も現に存在し、それなりの意味を持ち続けているのですか? 世界中の政策当局者が馬鹿だからですか?当局者のブレーンには経済学博士や修士がゾロゾロいますよ。
たとえば日本では公的債務が増え続けていますが、長期金利は上がっていません。今は日銀が国債を大量に買い入れているからですが、黒田バズーカ以前から金利は永らく低位のままでした。つまり日本は変動相場制ですが、永らくマンデル=フレミングの「財政政策は無効」という法則は働いていないということです。
余談ですが、もし本当に変動相場制下では財政政策が無効なら、逆に消費税増税等の緊縮財政をやっても(金利低下のプラス効果で相殺されて)需要面のマイナス効果も無効になるはずなので、日本は緊縮財政を怖がらずにやるべきだ、という結論になりませんか?
もちろん、実際には日本はこれ以上の金利低下は見込めないから、そんな話にはならない。つまり、現在の日本経済を説明するためにはマンデル=フレミングの法則は役に立たないということです。
固定相場制を考えても、マンデル=フレミングモデルは国際資本移動が完全に自由なことが前提ですから、中国やロシアが実際にやっているように資本移動を規制をやれば、マンデル=フレミングの前提が崩れますから、金融政策は無効ではなくなります。
さらに付言すれば、貨幣数量説を理論的根拠とする量的緩和政策も実際には全然機能していないですよね。リフレ派は「消費税増税のせいだ」と言い訳していますが、その釈明自体、現実の経済は一つの理論通りには動かないことを認めていることになりませんか?
もうお分かりのはずですが、マンデル=フレミングモデルだけで説明できる実体経済など現実の世界には殆ど存在しないのです。
社会科学における「理論」は特にそうですが、一つの原理や法則だけで現実の動きを説明し尽くせるものなどないのです。経済学の殆どの理論は、各論的な要素や傾向を説明しているに過ぎません。基礎理論を理解しておくことは大事ですが、現実の経済に使う際には各理論を相対化するバランス感覚が必要です。
>(>輸出が回復する前に国債がデフォルトしてしまいますよ。実際、ギリシャはユーロ加盟前からデフォルト常習国)対外債務を一気に償還する訳ではないでしょう?
利払いが出来れば一息つけますよね。
→一息つく前にデフォルトするって言っているんですが。利払いができなくなるからデフォルトするのですよ。
(>信用崩壊、通貨暴落、激しいインフレです)日本は1千兆円の赤字国債を発行してますが…
→揚げ足取りではないですが、国債発行残高のおよそ3分の1は建設国債として発行されたものなので、全てが「赤字国債」ではないので、「1千兆円の赤字国債」は間違いです。そもそも国債が「赤字」か「建設」かは財政法上の区分に過ぎず、流通してしまえば赤字、建設の区別はないので、発行残高を赤字、建設に分けて考えることは無意味です。
(…円安になっていますか?激しいインフレになっていますか?海外で有事があれば円が買われるほど信用力があります)
→今までがそうだからといって、今後、潮流が突然変化しないとは限りません。為替や債券のディーラーたちの大勢が今すぐ日本が財政破綻することはないと思っているだけのことです。当面、日本国債は利幅は薄いものの日銀が確実に買い取ってくれる安全商品とみなされているので、リスクオフ時には資金の一時避難先として条件反射的にカネが集まっているだけです。財政破綻がまだ意識されないのは、増税余地があると見られていることもあります。しかし、それが政治的にやれないと市場が疑い始めれば、話は違ってくるでしょう。財政破綻が意識されてしまえば、短期間で国債も円も暴落する可能性は否定できません。ギリシャ国債の破綻リスクを示すCDSスプレッドは財政粉飾が露見する2009年以前まではアイスランドより低く、イタリアやポルトガルともほとんど差はありませんでした。
http://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je12/pdf/p03011.pdf日銀の大量の国債買い入れにより、既に日本の国債市場は市場原理の外にあり、市場がアラート機能を失っているとの指摘もあります。戦前戦中に大量発行された国債は日銀引受によって順調に消化され、終戦までは金利も低位安定していた。現在もこれと同じ状態である可能性は否定できません。
http://www.nri.com/jp/opinion/chitekishisan/2005/pdf/cs20050702.pdf>先日の日経新聞には「日銀が買い上げた国債を預かり金として処理すれば借金は消える」と小さい記事ですが書いていましたね。そんなものです。
→記事を探しましたが、見当たりません。記事検索可能な正確な情報をお示しください。
それがもしあなたの解釈通りなら驚くべき錬金術です。「バーナンキの背理法」ではないが、もし会計処理だけで「国の借金が消える」なら、無税国家が可能になります。中央銀行が国債を無制限に引き受けてもインフレが発生しないなら、全ての国家は財政需要を全て国債発行で賄い、その全額を中央銀行が引き受ければ魔法の杖のように税源をいくらでもタダで確保できることになります。本当なら、とっくに世界中の全ての国が採用し、全世界が無税国家になっているはずです。そうなっていないのは、そんなバカなことはあり得ないからです。
(1990年から2010年までの20年間のGDPの増減を調べてみて下さい。名目で107%、実質で120%の伸び率しかありません…世界の中でも最低クラス)
→90年代の低成長は政策対応のまずさもあったでしょうが、いずれにしても90年代はバブル崩壊で100兆円の重石(不良債権)を抱えていたわけですから、「失われた10年」は不可避だったと思います。
また、90年代の日米の成長率格差の原因は労働投入の差、つまり日本の雇用減少という分析もあります。98〜99年の金融危機に伴う倒産やリストラが主因でしょう。これはバブルの後始末の結果です。00年代以降とは原因が異なるので、一緒くたに語るのは分析的でないと思います。
http://www.rieti.go.jp/jp/papers/contribution/motohashi/01.html(人口とGDPの伸び率に相関関係はありません、そういうデータも存在しません。世界銀行の資料だと国名が記載されていないので具体的な国名は分かりませんが人口減でも一人あたりのGDPが伸びている国は沢山あります)
→人口減でも一人当たりGDPが伸びている国の一つが日本だと言っているんです。反論になっていません。
一般論で言えば、人口規模が大きければ「規模の経済」が働くため、経済成長には有利です。人口大国の多くが経済大国や成長著しい新興国であることがそれを証明しています(もちろん経済は人口規模だけで決まるわけではないので、バングラ、パキスタンなどの例外もありますし、逆にシンガポール等の人口小国・経済大国もありますが)。
人口規模ではなく人口増加率と経済成長率の間にも「緩やかな相関関係がある」というのが一般的な理解。なお、一人当たりGDPについては人口規模や増減率との相関関係はありません。
以下は十年以上前のものですが経済財政白書ですが、その辺りが詳しく分析されています。
http://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je03/03-00302.htmlただし、日本の人口問題のポイントはそこではありません。端的に言えば「減少速度の速さ」です。戦争を除き、これほど急速に少子高齢化が進み、年齢構成が逆ピラミッド型になってしまった社会は歴史上ほとんど前例がないという点です。つまり、前例がないレベルの「人口オーナス」問題です。年金生活者の割合が増えていけば、労働力率は低下し、高齢者福祉のレベルを維持するだけでも支える側(勤労者)一人当たりの負担が増えていくという単純な算術の問題ですね。この構造問題を放置しているため、潜在成長率や一人当たりGDPの維持さえ困難になりつつあるのが、今の日本経済の姿です。
2000年代の生産年齢人口変化率とインフレ率には相関関係があるとのデータもあります。インフレ率と名目成長率には相関関係があるので、生産年齢人口の変化率と名目成長率も相関関係があるはずです。生産年齢人口は1990年代から低下し続けていますが、これがデフレの一因、もしかしたら最大原因かもしれません。
https://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2012/data/ko120530a2.pdf→図表14
>(>当時の景気悪化は、消費税増税とは無関係です)1997年橋本内閣が消費税を5%に上げましたがそれまで53.9兆円の税収がありました。翌年には49.4兆円、次の年は47.2兆円と税収が激減しています。その頃からですよ国債発行が急増したのは…。そして1996年の税収を上回るのは2016年を待たねばなりません。これは因果関係が無いのでしょうか?データ上無理がありますよね。確かに1997年に幾つかの銀行が破綻していますがそれが税収減の全てと考えるのは無理があります。税収における法人税の割合を調べてみて下さい。銀行はその後救済されていますよね、日銀は銀行から預かった預金を当座なのに金利を0.1%付けて保護して何年も経ちます。20年も税収不足が続くのは銀行の金融破綻が原因ですか、GDPの伸びが足らないと考えるのが妥当だと思いますが。
→いまだにこれと似たような完全に間違った解説をしている評論家がいるのは、本当に困ったことですね。
まず、金融危機というものは金融機関だけがダメージを受けるものだとお考えなら、経済を知らなさ過ぎます。金融は経済の血液。血液や血管がダメージを受ければ、全身がダメージを受けるんですよ。実際に98〜99年にも全国で貸し渋りや貸し剥がしが起こって倒産が増加し、2年連続のマイナス成長に陥ったのです。金融機関の破綻だけでは済まなくなるんですよ。法人税収や個人所得税収は落ち込んで当たり前です。
その後も総税収が伸びない理由は「GDPが伸びないから」ではありません。税制が同じで名目GDP伸び率がほぼ横ばいなら、税収もほぼ横ばいで推移しないとおかしいのです。実際の所得税と法人税の税収は横ばいどころか大きく減少しています。それは98年以降、所得税も法人税も段階的に大幅な政策減税が行われてきたからです。
国内企業の経常利益総額は2004年に89年のバブル時代のピークを超え、その後も過去最高益を何度も更新。2011年には89年の1.5倍に近い水準に達している。それなのに法人税収はいまだにそのピークを超えていない。これは法人税率が大幅に引き下げられたからです。
所得税も然り。名目国民所得(GNI)も名目GDPと同様に00年代以降はほぼ横ばいなのに、所得税収は落ち込み続けている。こんなことが起こる理由は、減税しかありえません。
なお、この件については、私のこのブログでも過去に詳しく論じていますので、興味があればそちらもご覧ください。コメント欄には「高橋洋一」さんからも繰り返し質問やら中傷やら脅しが来ていて、なかなか面白いですよw
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