ラテンアメリカ学会非会員さんへ

Posted by fukutyonzoku on 19.2011 経済分析 3 comments 0 trackback
先の記事へのコメント欄に書こうと思いましたが、長くなりましたので、別稿にしました。

>輸出企業のほうが労働分配率(利益から労働者の賃金への割合)が低いのです。

→具体的なデータをお示しください。ちなみに、私が確認した統計によれば、どの時期でも製造業の労働分配率は非製造業のそれより概ね10%ポイント程度も高いですよ。企業規模別では大企業ほど労働分配率は低い。これは、分母である利益が大きい、あるいは大企業は海外進出している割合が高いから、海外の安価な労働力のウエイトが高いことも一因かもしれません。
http://mitsui.mgssi.com/issues/report/r0702x_hasegawa.pdf
もし輸出企業は労働分配率が低い、あるいは低下しているとのデータがあるとしても、それは輸出企業には大企業が多いからではないでしょうか。海外現地生産によって安価な労働力が増えている影響もあるとすれば、国内従業員の労働分配率だけを取り出して論じないと意味がありません。

また、全体として日本の労働分配率は低下を続けているとの見方は間違っていると思います。日本の雇用賃金体系は硬直的なので、常に景気変動に遅れて変化します。このため、労働分配率は景気回復期には下がり、逆に景気後退期には上がる傾向があります。例えば、バブル崩壊後の90年代の長期景気停滞期に労働分配率は上昇し続けた。これがバブル崩壊後の不況を長引かせた一因だという経済学界のコンセンサスを受けて、小泉政権は悪名高い雇用流動化政策を導入し、若い世代に皺寄せがいく不完全な形で導入されたのです。
2002年以降に労働分配率が低下し続けた原因には、確かに大企業が労働分配より株主配当や内部留保、自己資本比率向上等の資本政策、あるいは成長や競争力のために設備投資に重点を移した影響は否定できません。ただ、そうした利益配分調整の影響で永久に労働分配率が低下し続けるということはない。長期に見れば、一定の範囲に収まっています。00年代の労働分配率の低下は90年代に上がり過ぎたための修正と見ることもできるし、基本的には景気回復期だったからとの解釈が常識的な分析でしょう。現にこの間、雇用者報酬は緩やかながらも増加しているし、逆に07年のリーマンショック以降、労働分配率は急激に上昇しています。
http://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/kako/documents/2_p20-25.pdf
http://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/keizai_prism/backnumber/h21pdf/20096501.pdf

貴兄の言われるようにグローバル競争の影響で輸出企業のトリクルダウンが機能しにくくなっている側面は一定の真理があると私も思います。ただ、 仮にそうだとしても、それでは輸出企業なしに高齢化と人口減が確実に進むこの国の内需をどうやって拡大すればいいのでしょうか? TPP交渉に参加しないということは、グローバリゼーションに背を向け、米国とも距離をおくということですから、安全保障を含めた国家ビジョンの大転換を意味します。であれば、新たな国家ビジョンを明確に語る必要がありますが、そうした議論は殆ど聞かれない。農業とか医療とかの部分最適を論じているに過ぎない。まさか、脱米親中などと少し前の浮世離れした「宇宙人総理」のようなことを言いだすのでしょうか。

百歩譲って仮に輸出企業の労働分配率にあまり期待できないとしても、だから不要だというのは、あまりに乱暴な極論でしょう。世界中の政府がグローバル製造業を残そう、あるいは誘致しようと全力で取り組んでいるのはなぜでしょうか?
TPPに参加しないことで予想される大きな問題の一つは、戦略的にアジアの貿易や物流のハブになろうと競っている韓国や東南アジア諸国に、競争力のある日本企業がくし抜けのように出ていくこと、つまりは空洞化です。私に言わせれば、ビジネスの世界に疎い反グローバリゼーション論者は、製造業の空洞化のマイナス影響に鈍感過ぎるんですよ。国内のサプライチェーンの断絶が始まれば(もう始まってますが)、空洞化は加速度的に進むでしょう。それは何を意味するかというと、国内から法人税のみならず、雇用も賃金も、従って所得税も消費も消費税も、あるいは民間設備投資も下請け孫請けへの発注も、さらには技術基盤も研究開発力も人材も……日本の豊かさを支えてきたものが何もかも失われていくことを意味するんですよ。米国議会もようやくそのこと(特に技術基盤や研究開発力の喪失)に気付き、いま真剣に対策を議論し始めています。

GDPにおける外需のウエイトは一見小さく見えるかもしれないが、外需の内需への波及効果、つまり間接的に外需に繋がっている内需の大きさを考えれば、日本の実質的な輸出依存度は今でも低くはないし、今後不可避となる内需縮小を考えれば、外需依存度をさらに高めていくしか、日本の豊かさを維持・発展させていく現実的な方策があるとは思えない。それは日本経済の行く末を真剣に考えている人たちのコンセンサスです。矛盾しているように聞こえるかもしれませんが、日本はそれでもまだまだ主要国に比べてGDPに占める外需のウエイトが低いので、もっと外需を内需に取り込む余地はある。それをやらなければ内需拡大は期待しにくいし、トリクルダウンの経路も働かないと思います。

殆どの反グローバリゼーション論者は、分配政策のことしか言いませんが、所得再配分を一時的に高めることはその気になれば可能でしょうが、高め続けることは不可能です。適正な分配や政府のセイフティーネットのあり方は重要な政策課題ですが、分配するパイの縮小はより深刻な問題であり、これを何とかしないことにはジリ貧になるだけ。いくら分配を論じても絵に描いた餅でしかなくなります。

「雇用改善のキーワードは“トリクルダウン”:森田京平・バークレイズ・キャピタル証券 ディレクター/チーフエコノミスト」http://diamond.jp/articles/-/10277)

また、TPPには経済政策の意味合いにとどまらず、安全保障や体制選択、対中包囲網といった高度に政治的な判断を要する問題でもあります。日米韓、東南アジアが共同して中国を市場経済体制に引き込んでいくことは、日本の安全保障にとっても重要でしょう。WTOのようなマルチの枠組みの方がもちろんベターだし、TPPはブロック経済化だとの批判もあるが、できるところから広げていけばいいのです。ASEAN+3あるいは+6との通商同盟も並行してやればいいんです。そもそもEUだって同じでしょう。そうやって世界の市場や経済を徐々に一体化させていく。米中関係、日米関係だって軍事的には軋轢が高まっているものの、世界最大の二国間貿易関係は米中、二番目が日中であり、この三カ国は経済的には既に互いに抜き差しならない親密な関係にある。それが軍事的にも最大の抑止力になると考えます。


>安い農産物=「良い」デフレ。
「良い」デフレとは何ですか? これだけでは、何のことかわかりません。安い農産物が入ってくるので、消費者の利益になる、という近視眼的な発想だけがあるんじゃないですか?

→良いデフレと言ったのは、関税撤廃による農作物価格の低下は、需要が減少するために起こるデフレ(悪いデフレ)ではないし、しかも一時的なデフレ要因に過ぎないからです。関税を撤廃してしまえば、それ以上デフレが続くことはありません。コメに関していえば、10年かけて段階的に引き下げるとすれば、実際に影響が出るのは7~8年後ですから、デフレ圧力となるのはせいぜい3~4年。しかも、消費者は食費が減る分、他の条件が変わらなければ、その分、可処分所得が増えるので家計にはプラスだし、他の消費を増やせば個人消費にとっても中立です。もし、消費税増税で農業生産者への直接支払いを増やしたとしても、個人消費にはマイナスですが、家計にも農業生産者にも影響は中立ということです。

>「貿易不均衡」
まったく意味を取り違えています。これまで日本は(あるいはドイツ、最近では中国)がアメリカを主な輸出先として輸出し利益を上げてきた。しかし、リーマンショック以後、アメリカの購買力(アメリカが輸入できる購買力)が落ちてきた。そこで、日本=輸出、アメリカ=輸入という「不均衡」を是正することが、世界の貿易の健全化につながる、という考え方です。

→何が言いたいのかよくわかりませんが、アメリカによる貿易不均衡是正論はリーマン・ショックが起こってから出てきたものではなく、何十年も前からずっと言い続けてます。
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コメントいただけるとは思っていませんでしたので(というか記事になっているとは思いませんでしたので)最近拝見しておりませんでした。ちゃんとHN考えておけばよかったですね(笑)。最初の「メキシコの先住民云々・・・」というところで、何を言ってるんだ、と思ったので(ちなみに、ラテンアメリカの専門家ではありません。だから「非会員」)。

とりあえず、ひとつの点だけ。
労働分配率
私が参照したのは中野剛志氏の『TPP亡国論』です(素人丸出しですか?)。TPP関連では農文協からでているシリーズの中で松原隆一郎氏の論文にも同じことが書かれていたと思います。
fukutyonzokuさんが参照されましたHPを見てみましたが、私が指摘したことと同じようですが・・・

http://mitsui.mgssi.com/issues/report/r0702x_hasegawa.pdf
(中野氏のデータはこれと↑同じようです)。

まず図表5と図表6を比べると、大企業で労働分配率の低下が大きい企業は、逆に輸出額では伸びているのです。
引用すると、「特に、新興国の高成長を背景に世界経済が堅調に拡大してしていく中では、製造業を中心に輸出の増加や海外での収益拡大が分配率の下押し圧力として大きく働いていく。」

「グローバル化が進むなかで、海外要因が働きやすい経済構造になっており、企業が賃金抑制しているとはいえない状況になっている。」

「輸出の増加や海外での収益拡大が分配率の下押し圧力として働く」
通貨価値が低い新興国と、低価格競争をしていれば、賃金圧縮の方向へ向かいます。
だから、「企業が賃金抑制しているとはいえない」。つまり、↑こういう海外要因があるので、企業に賃金を上げる余裕がないわけです。

世界ということを言うなら、これは先進国共通の現象です。通貨価値が高い先進国の企業が、通貨価値の低い新興国と低価格競争をするために、先進国で賃金が上がらない状況が続いています。これは『世界経済を破綻させる23の嘘』のハジュン・チャンやエマニュエル・トッドも指摘しています。
 EUのPIIGS諸国が財政危機に陥るのも同じ構造ですよね(この場合には、通貨統一というEU独自の原因もありますが)。
 
 こういう状況が変わらないと、今までと同じような輸出のやり方で賃金が上がっていくというのは期待できないと思いますが、どうでしょうか。

>戦略的にアジアの貿易や物流のハブになろうと競っている韓国や東南アジア諸国に、競争力のある日本企業がくし抜けのように出ていくこと、つまりは空洞化です。

じゃあ日本が韓国や東南アジア諸国と同じことができるか、あるいは、同じことするべきか、というのは議論が必要です。まず、今の日本の状況では、韓国や東南アジア諸国のようにはなれませんよね。じゃあ、どうする?
だから、私に言わせれば、自由貿易論者は現在EU(特にドイツ、フランス)、日本のような先進国(アメリカも入れてもいいでしょう)が置かれている状況に疎すぎます。

実はTPPにはあまり関心がありません(TPPには反対ですが)。それこそ、リーマンショックやギリシャ危機の分析などしていただけたら、関心もって読みますよ。
これは上で言っていることとつながります。EUやアメリカのような先進国を分析することで、日本が進むべき道が見えてくるのではないでしょうか(韓国や東南アジア諸国をモデルにしてもあまり意味がない)。

2011.12.24 00:23 | URL | ラテンアメリカ学会非会員 #- [edit]
>グローバル競争の影響で輸出企業のトリクルダウンが機能しにくくなっている

グローバルな輸出企業のトリクルダウンが機能したことなんぞそもそもあるのかな?
寡聞にして知らないけど。
分配するパイがTPPで大きくなるという根拠もよーわからん。
行き着く先はマッチョが争う、マッチョによる、マッチョのための社会ってヤツなのかな。その中で最後まで争いに勝ったking of マッチョが全てを支配する(笑)。と妄想はここら辺にして。

全体的に見て、関係あるようで実はない内容が多くてあまり関さんに対する反論になってない。もー少し落ち着いてキチンと相手の論を読んでから論点を絞って反論しないと、その内「miss read」ばっかりになりそうだから気を付けた方がいいと思う。
2012.01.11 11:47 | URL | kgofboston #- [edit]
せっかく面白くなってきたのに、fukutyonzokuさんがご自分のブログに対する書き込みにレスポンスをしなくなってしまったので、少し残念です。

もう1つ聞いておきたいと思います。

私は、農業による正の外部経済が十分に大きい場合には、まずはこれに対して正当に応える補助金を設計することを考え、その適正な評価が難しい場合にはガサッとした補助金が、財政的に十分な支出が難しい場合には関税が、それぞれ正当化されるものだと考えています(OECDレポートのパクリだ)。

すると、関税撤廃論者はまず、生の外部経済を内部化するための補助金の制度設計を考え、このようにすれば市場の失敗は起きない、というプランを提示しなければならないと思うのですが、その補助金の制度設計に関する納得のいく説明を聞いたことがありません。

fukutyonzoku さんは、これまでの議論の流れからいって、当然のことながら補助金の制度設計に関するプランをお持ちのことと思います。それを、このブログ上でご提示いただけないでしょうか。

関税撤廃の可否に関する議論は、そこからしか始められないと思うのですが、いかがでしょう?
2012.01.27 21:08 | URL | 田中革命 #- [edit]

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