国家戦略特区WGが文科省に要求した「悪魔の証明」

Posted by fukutyonzoku on 06.2017 政治・経済 0 comments 0 trackback
加計学園への国家戦略特区指定をめぐる一連の騒動について、高橋洋一氏は、ダイヤモンドオンライン「加計学園の認可は『総理の意向』の前に勝負がついていた」と題した記事の中で、「当時、規制緩和を進めようとした内閣府に対し、文科省が抵抗したわけだが、この閣議決定にある需要見通しを文科省が出せなかった段階で、内閣府の勝ちである。新設が不要というなら、それを裏づける獣医師の需要見通しを示す『挙証責任』は許認可権のある文科省にあるからだ」と書いていた。これが逆立ちしたおかしな論理であることは、当ブログ記事で既に説明した。

高橋氏と同じように、一部の安倍・加計擁護派の中には「規制の根拠を示す虚証責任が所管省庁にあることは、国家戦略特区基本方針(2014年2月25日閣議決定)に書いてあるじゃないか」と主張する向きもある。しかし、基本方針にはこうあるだけだ。

関係府省庁の長に対し、必要な資料の提出及び説明を求めることができるほか、勧告し、当該勧告に基づいて講じた措置について報告を求めること等ができる(5p)

調整に当たり、規制所管府省庁がこれらの規制・制度改革が困難と判断する場合には、当該規制所管府省庁において正当な理由の説明を適切に行うこととする(23p)



「当該規制所管府省庁において正当な理由の説明を適切に行うこととする」の部分を「虚証責任」と言っているらしいのだが、結局のところ、規制官庁側がいくら説明しても、それが虚証責任を果たしているか否かを判定する第三者が諮問会議内にいるわけではない。規制を解除したいWG民間議員らが「説明が不十分」と一方的に判定すれば、それで「虚証責任が果たされなかった」ことになってしまう。そもそも、そういうスキームなのだ。
繰り返しになるが、元々そういうスキームだからと言って、今回のケースでは4条件が「日本再興戦略」の中で閣議決定されたので、総理大臣と言えどもそれを無視してもいいことにはならない。当然ながら諮問会議も、である。

◾️WGが文科省に迫った「悪魔の照明」

「基本方針」にある通り、文科省や農水省は諮問会議WGに説明を求められ、議事録を読めばわかる通り、実際には明確に答えている。

農水省は
①獣医師需要は全体として足りているし、今後は減っていく可能性が高い
②職域や地域の偏在は(地方自治体等の)採用側の待遇改善で解決可能
ーーと説明。その需要予測を基に文科省は「新設を認めるのは困難」と説明している。

これに対し、民間議員らは「新分野の需要はあると聞いている」「そもそも文科省が定員管理するのはおかしい」「獣医がいくら増えても困る国民はいない」と一方的な論理を振り回しただけである。要するに彼らは、最初から文科省による大学定員管理そのものを認めたくないのだ。
大学の補助金制度を残したまま入り口(新規参入)だけ企業と同じ競争原理を導入しようとする民間議員らの論理のおかしさは、既に当ブログで詳しく論じているので、ここでは繰り返さないが、文科省と民間議員らは根本思想がそもそも違うのだから、議論が噛み合うはずがない。
とにかく、民間議員らは「新分野の需要は伸びるはずだ」というあやふやな主張をしているだけなのだが、文科省がそれを否定するなら、「新分野の需要は今後もない」ことの根拠となる需要見通しを出してこい、と迫ったわけだ。それが出せないなら、獣医学部・学科の新設を認めよ、と。
新たな需要が伸びるという見込みを示すことは簡単だ(単なる皮算用だとしても)。しかし、将来にわたって「需要が伸びない」ことを証明するのは、いわゆる「悪魔の証明」であり、不可能だろう。文科省からみれば無理難題の言い掛かりにしか見えなかったはずだ。こんな理屈を認めてしまえば、新分野を掲げる設置申請は、中身がいくらいい加減な見通しであっても全て認めなければならなくなるからだ。

そもそも文科相も農水相も厚労相も諮問会議の正式メンバーではなく、諮問会議側から見れば、退治すべき規制官庁の側だ。特区法や閣議決定の特区基本方針では、諮問会議側が規制官庁側に説明を求める権利と、その要求に規制官庁側が応える義務が記されているだけである。規制官庁側には自ら進んで議論に参加する権限も、決定に関与する権限もない。つまり、諮問会議側は規制官庁の説明を聞くという手続きさえ踏めば、無視しても構わない。その説明が合理的であろうとなかろうと、気に食わなければ勝手に規制側の言い分を却下できるのだ。その決定に対し規制官庁側は異議申し立てができない。
ただし、唯一、特区指定前に総理大臣が規制官庁側の大臣から合意を取る手続きが特区法で定められている。しかし、事務的に調整が終わってなくても、総理が自ら任命した大臣から了解を取ることなど、政治的にはわけないであろう。国家戦略特区とは、最初からそういう仕組みなのだ。そして実際にもそれが行われた。

◾️達成不可能な「石破4条件」

ところが、この「総理大臣がその気になれば何でもできてしまう」という、この特区の大胆(出鱈目?)な仕組みに「待った」をかける重要な布石が2年前に打たれていた。それが「石破4条件」を含む「日本再興戦略改訂2015」だ。高橋洋一氏の見立てとは真逆に、実はこの時点で加計問題は「勝負あった」はずだった。石破茂・農水省・文科省(+財務省?+麻生太郎副総理兼財務相?)の勝ち、安倍首相・内閣官房・内閣府(実質は経産省)・特区諮問会議の負けだったのである。なぜなら、そもそも「4条件」は、事実上獣医学部新設を拒否しているとしか解釈できない、高いハードルだからだ。

2015年6月30日に閣議決定された「日本再興戦略2015改訂版」に記された「4条件」を再掲する(16㌻)。

(1)現在の提案主体による既存の獣医師養成でない構想が具体化し、
(2)ライフサイエンスなどの獣医師が新たに対応すべき分野における具体的な需要が明らかになり、
(3)かつ、既存の大学・学部では対応が困難な場合には、
(4)近年の獣医師の需要の動向も考慮しつつ、全国的見地から本年度内に検討を行う。


((1)~(4)の番号は筆者挿入)

 この4条件の解釈について、当時者の地方創生担当相兼国家戦略特区担当相だった石破氏自身が最近(6月2日)、自身のブログで以下のように解説していた。

「政府としては、
①感染症対策や生物化学兵器に対する対応などの「新たなニーズ」が明らかであること。(筆者注=4条件の(2))
②それが現在存在する国公立・私立の獣医学部や獣医学科では対応が困難であること。(同(3))
③特区として開設を希望し、提案する主体が「このようにして従来の獣医学科とは異なる教育を行う」というカリキュラム内容や、それを行うに相応しい教授陣などの陣容を具体的に示すこと。(同(1))
④現在不足が深刻化している牛や馬、豚などの「産業用動物」の治療に従事する獣医の供給の改善に資すること。(同(4))
以上4点について判断すればよいわけです」
「…国家戦略特区は一部の地域のみの利益に資するのではなく、全国的にその利益が及ばなくてはならない」(同(4))

「①は主に厚生労働省が、②と③は文部科学省が、④は農林水産省がそれぞれの専門的知見から当事者の主張を聞いて意見を述べ、これらをもとに国家戦略特区認定に権限を有する内閣府が、その責任において判断したことなのでしょう。これらについて適正に行われたという説明を、具体的な根拠の提示と共に果たせばよいだけのことです」



「4条件」の(2)は創薬等の新分野の具体的な需要が明らかになることが条件だと言っているが、これは正直、本当の需要は誰にもわからないだろう。
ライフサイエンス(生命科学)とは「生命現象を生物学を中心に化学・物理学等の基本的な面と、医学・薬学・農学・工学・心理学等の応用面とから総合的に研究しようとする学問」とのこと。創薬はその応用が期待されるビジネス分野の一つだが、関係する専門分野が多岐にわたる学際的な新分野なだけに、これまでの成果もよくわからない。ましてや他のどんなビジネスに応用可能かも手探りの状態というのが現状であろう。そんな混沌とした学問分野の中で、将来の成果を正しく見通し、さらには獣医学が具体的に貢献できる範囲を絞り込むことなど、殆ど不可能だ。その需要を明らかにせよ、というのは、どだい無理な注文なのだ。商売慣れした経営コンサルに頼めば、都合の良い想定だけを集め、目一杯水増しした需要予測を出してくるかもしれないが、まともな専門家の突っ込みに耐えられる予測が作成できるとも思えない。

(3)もクリアするのは極めて難しい。新設学部なら最新の設備を整えられるアドバンテージはあるだろうが、「既存の学部・学科が対応困難」なカリキュラムを組むということは、それだけ教員人材獲得のハードルは高くなる。教える人材がたくさんいるなら、既存の大学が対応困難ということにはならないからだ。場合によっては、破格の待遇を約束して国内外から最先端の人材をヘッドハントする必要があろう。経営側の財政負担が増し、学費も既存大学より高くなる可能性が高い。
そもそも既存16大学獣医学部・学科は新分野に対して何も対応していないわけではない。最近の獣医学界では人獣共通感染症が最大のテーマであり、獣医系を持つ総合大学では、医学部や農学部、遺伝子解析等の分野で工学部との連携を進めている。かつて検討された国公立大獣医学系の再編・統合は合意には至らなかったものの、2012年度から北海道大と帯広畜産大、岩手大と東京農工大、山口大と鹿児島大の3組が、2013年度からは岐阜大と鳥取大が、それぞれ共同教育課程の取り組みを始めている。こうした既存大学による学際的、大学横断的な新分野対応が急速に進む中で、既存大学が対応していない分野を中心にカリキュラムを作成するだけでも難しいはずだ。
(4)について石破氏は、要するに既存の分野についても、全国的に需要が足りているペット獣医ではなく、需要が不足している産業獣医の養成を重視しろ、という意味だと言っている。受験生はペット獣医志向が多く、現実的には獣医師資格の国家試験を念頭に置いたカリキュラムを放棄するわけにもいかない。果たして産業獣医養成や新分野に傾斜した特色あるカリキュラムで受験生を集められるのか、教育プロセスの中で学生をうまくペット獣医から誘導していけるのか、という意味でもハードルは高い。
つまりこの4条件は、達成が事実上不可能なほど高いハードルなのだ。閣議決定された時点で、特区指定の道は事実上絶たれたも同然であった。

◾️「4条件」は北村直人氏が石破担当相に要請?

その証拠に、この閣議決定の10日後、2015年7月10日に行われた全国獣医師会事務・事業推進会議で、北村直人・日本獣医師政治連盟委員長(元衆院議員、獣医師)が次のように活動報告を行っている。

北村氏は、日本再興戦略改訂2015の閣議決定の概要を説明した上で、

「獣医師養成の大学・学部の新設の可能性はこの3つの条件(⑵~⑷)によりほとんどゼロです。16獣医師系大学で対応できない獣医師はいない訳ですから、現在の獣医師学系大学でこれらができるということは当然です。石破担当大臣と相談した結果、最終的に『既存の大学・学部で対応が困難な場合』という文言を入れていただきました」



さらに、こう続けている。

「ただし、今後もこの問題は尾を引いてくると思います。つまり、日本の最高権力者である内閣総理大臣が作れと言えばできてしまう仕組みになっておりますので、こういう文言を無視して作ることは可能です」



と、さすがに北村氏は正しく特区の枠組みを熟知している。事実、北村氏の懸念した通りに事態は推移していったのだから。

◾️政治的妥協の産物?

ところで、なぜこんなに高いハードルが閣議決定されてしまったのかは、謎の部分が多い。言い方を換えれば、なぜ安倍首相や内閣府・諮問会議チームがそれを許してしまったのか、である。総理が決断さえすれば閣議決定など無視できる、とタカを括っていたのだろうか。あるいは、安倍首相と石破担当相の間で何らかの裏取引でもあったのか。

当時、この4条件を含む日本再興戦略改訂2015の取りまとめ責任者だった石破氏は、防衛庁長官と防衛相を歴任し、安全保障問題の論客として知られているため、「防衛族」のイメージが強い。しかし、選挙区は農業県の鳥取県で、麻生内閣では農水相も務めるなど、元々「農水族」の顔も持っている。しかも、鳥取大学には農学部獣医学科もある。
北村氏とは出身派閥が違うとはいえ、初当選は1986年の同期。ともに自民党衆院議員だった父の死去に伴い出馬した2世議員であること、農水族であることも共通点。一時は自民党を離党しかつての新生党でも合流し、その後自民に復党した経歴も似ており、個人的に親しいとも言われている。
しかし、今治市が国家戦略特区での加計の獣医学部新設を初めて内閣府に正式に説明したのが2015年6月5日。「日本再興戦略改訂2015」が閣議決定されたのが同月30日だ。改訂2015に本件を滑り込ませるために諮問会議の直前に説明日程を組んだのだろう。これには安倍首相本人の意向が働いたのかどうかはわからないが、いずれにしても獣医学部新設を特区のメニューに正式に乗せた。一方で、石破氏は北村氏の要請もあり、この改訂2015に事実上加計の計画の実現に高いハードルを設定した。
これはかなり緊迫したギリギリの政治攻防だったに違いない。加計学園や安倍チームにとっては、初めて「獣医学部・学科の新設」がアベノミクスの成長戦略に正式に盛り込むことに成功した一方、守る側の石破チームにとっても「事実上新設が不可能な条件が盛り込まれた」と言える。それぞれに都合の良い解釈が可能な外交文書のような政治的妥協の産物だったのではないか。

◾️内閣改造で一気に動き出す

半年後の12月15日、今治市の提案は広島県とセットで「広島県・今治市」として特区指定されることが特区諮問会議で決定。翌2016年1月29日付の政令で正式指定され、「広島県・今治市国家戦略特区会議」が立ち上がる。しかし、3月30日に開かれた第1回会議では、獣医学部新設は正式議題にはならず区域計画には盛り込まれなかった。この日は同会議の下に「今治市分科会」を設置することを決めたものの、事実上の休眠状態が続いた。
ところが、この年の8月3日に内閣改造が行われ、石破氏が担当相を外れると、それを待っていたかのように一転して動き出す。
9月9日の特区諮問会議で、民間議員が「残された岩盤規制改革の断行について」を提案。「重要6分野」の一つとして「⑥地方創生に寄与する『一次産業』や『観光』分野での改革の推進」を挙げ、その例として「獣医学部の新設」を例示した。同月21日、ずっと休眠していた「今治市分科会」も開かれ、獣医師養成系大学・学部の新設がようやく提案された。これを受けて11月9日の諮問会議で、「先端ライフサイエンス研究や地域における感染症対策など、新たなニーズに対応する獣医学部の設置」が決定。「現在、広域的に獣医師系養成大学等の存在しない地域に限り」との条件も付き、事実上、対象は加計学園に絞られた。
この諮問会議では、臨時議員として出席していた麻生太郎副総理兼財務相は「失敗して学校法人が倒産したら誰が責任を取るのか」などと異議を唱えた。しかし、WG座長でもある民間議員の八田達夫氏が「質の悪い大学が退場するシステムが必要」と一蹴し、前記の獣医学部新設が決定されている。麻生副総理でさえ諮問会議の正式メンバーではないので、決定権はないのだ。こうして担当大臣が石破氏から山本幸三氏に代わってわずか3カ月で、「4条件」は一切議論されることもなく、加計学園の獣医学部新設があれよあれよと決まってしまった。
この決定を受け、獣医学部新設を禁止していた文科省告示を解除する内閣府・文科省の共同告示が翌2017年1月4日に公示。同日付で「広島県・今治市国家戦略特区会議構成員の公募」が11日までのわずか1週間の期限で行われ、10日に応募した加計学園以外には応募があるはずもなかった。

◾️文科省巻き返しの可能性?

なお、文科省は門前払いだった告示を解除したことに伴い、加計から申請された獣医学部新設について、3月に省内の大学設置・学校法人審議会に審査を諮問。審議会は8月までに答申をまとめ、文科相が最終決定する予定だ。加計の計画の中身や今後の成り行き次第では覆る可能性もないとは言えない。実際には安倍首相と松野文科相の裏交渉次第だろうが、
少なくとも定員が大幅に削減されるのは避けられそうにない。

加計学園の獣医学部新設が「日本の国際競争力を強化する」という世迷い言

Posted by fukutyonzoku on 29.2017 政治・経済 0 comments 0 trackback


農業生産は日本のGDPの1%にも満たない(2015年で0.87%)し、畜産業はさらにその35%だ。就業人口6500万人のうち農業(202万人)が占めるウエイトは3%余りだが、専業農家や農業がメイン収入である1種兼業は「農家」全体の1割余りしかいないので、200万人や3%という数字にはあまり意味がない。
これに対し、例えば東京大学の農学部の学生は全体(約1.4万人)の4.5%(約630人)を占めており、札幌農学校が前身の北海道大(約1.2万人)に至っては農学部、畜産学部を合わせて8%近く(約930人)に達する。全国の大学でも「生物資源~」とか「生命科学~」などの名を冠した農学部に隣接する学部も増えており、全体として定員ウエイトは1%を優に上回っているだろう。

「歴史と伝統」という名の前例踏襲の結果、教育への資源配分が歪んでいるのではないか。少なくとも現状の畜産系や獣医系を含む農学系の定員や予算配分は、生産力や雇用吸収力に比べて手厚すぎるのだ。
食糧安保論や環境保護論、歴史文化まで持ち出し、産業の枠だけでは括れないという考え方もあろうが、「農業」は近世以前はどの国も主力産業であり、産業として永く重要であった結果として文化にも影響を与えたのである。本来の産業としての機能を失えば、国立公園や自然博物館で細々と保存するしかなくなる。

教育を国家の先行投資と捉えるなら、今の日本にとっては残念ながら一次産業は投資効率の悪い投資先だ。もし「日本は農業大国、畜産大国になりうる潜在的可能性があり、国家成長戦略として育成する」という明確な国家の見通しと意思があるのなら、教育財源の傾斜配分はあってもいいが、日本の農業や畜産業にそれほどのポテンシャルがあるとの説はあまり聞かないし、現実にも衰退の一途だ。安倍政権はそんな趨勢を逆転させる成長戦略を描いているかといえば、それもない。むしろ廃業が相次いでいる畜産・酪農産業を放置し、JA改革等によりリストラ(効率改善)を図ろうとしている。先日大筋合意したEUとのEPA(経済連携協定)交渉でも、チーズの関税撤廃時期を先送りするのが精一杯だった。日本の畜産酪農業を本気で守り育てるシナリオが安倍政権にあるとは到底思えない。そうした政策の方向性の中で獣医だけ増やしてどうするのか、という疑念が消えないのは当然だろう。

国家戦略特区の狙いは、あくまで「産業の国際競争力強化」「国際的な経済活動の拠点形成」なのだ。本気で国際水準のライフサイエンスや創薬の研究者を育成するなら、ポテンシャルの高い東大や北大に思い切って教育資源を集中させるべきではないのか。言っては悪いが、偏差値が50以下でしかない加計学園岡山理科大に、獣医教育における日本最高レベルの教員スタッフとポテンシャルの高い学生を集められるのか。
また、日本に3.9万人しかいない獣医の質と量を改善したところで、それが畜産や創薬、さらには日本経済を活性化させる起爆剤になるだろうか。そもそも創薬等のビジネスとの関わりでいえば、獣医は安全性評価や動物実験の際の毒性試験などに関わるだけで、脇役でしかない。研究開発の補助的な役割を担っているだけである。今では多くの製薬メーカーがその役割を外部の受託臨床試験機関(CRO)に委託している。その毒性検査の仕事に獣医免許は必要なく、獣医以外にも薬剤師や畜産学部出身者ら様々な経歴のスタッフが担っているという。そこに現在は1割程度しかいないという獣医師を増やしても、検査の質を高めることができるのか。もしできたとして、それが日本の国際競争力の強化に繋がるのか。相当に飛躍のある論理としか思えない。
バカも休み休みにしてくれ、と言いたくなる。

高橋洋一氏と国家戦略特区WGの呆れた規制緩和論(その3)

Posted by fukutyonzoku on 25.2017 政治・経済 0 comments 0 trackback
同級生の自民党地方議員が、加計問題で「危うさはみんな認識している。だから特区なのだ。政治家だけが出来ること」「みんな利権の匂いがするというが、どういう利権の匂いがするのか教えて欲しい」と質問されたので、答えました。その回答が「わかりやすい」という評判を頂ましたので、ここにも再掲しておきます。



特区には特区のデュープロセスがちゃんとあるわけで、「政治主導」だからトップダウンで何をしてもいいということではないのでは? どんな「利権」があるのかは問題ではなく、論点は①行政が歪められた(法律違反)かどうか、②政策として評価できるかーーでは? 仮に利権など何もなく「純粋な友情」のためとか、周囲の忖度や得点稼ぎのためだけだったとしても、①と②の議論が免罪されるわけでない。
①の法的な論点では、要するに国家戦略特区の趣旨に乗っ取らない同特区法、及び閣議決定に反する内閣法違反の疑いがあること。②については(①の特区法とも関連するが)、今回の獣医学部の新設が一体どう経済活性化に結びつくのか、全く意味不明であることです。国家戦略特区の目的は「産業の国際競争力を強化するとともに、国際的な経済活動の拠点の形成を促進する」ことなので。カジノ設置なら、賛否はともかく、観光産業の活性化、拠点形成という趣旨が特区に合致していることは誰でも理解できますが、今治の獣医学部開設は意味不明。数十年も新規開設がなかったというだけで「岩盤規制」? 昔は獣医が少なかったし高齢化で引退年齢も延びているから、引退者は少ない。既存学部学科で毎年1000人の獣医を世に送り出し、それで需給が釣り合ったということでは? 教員が足りない事情も関係しているらしいけれど。
もし獣医業界がギルドを作り、ボロい商売をしているというなら、特区諮問会議やその下のWGはそれを証明しなければならないが、WGの議論では何も証明されていない。第一、我が家も猫を飼ってますが、生活感覚として動物病院が待ち時間が長く、費用が高すぎるという感じはしないし、そんな話は誰からも聞かない。むしろペット獣医は余り気味になってきている。日本のペット産業がビジネス化し過ぎていて殺処分が多いのは社会問題だが、獣医のギルド化がメディアに取り上げられることもなければ、聞いたこともない。人間を診る医師は医師不足になっているのをみても、その疑いが十分あるけれど。
そもそも獣医は全国で3.9万人しかいないんだよ? 田舎の市町村人口と同じくらい。どう頑張ってギルドを作っても、日本経済全体の阻害要因にはなり得ない。公務員獣医や産業獣医の成り手がいないのは、獣医師会や農水省が言うように、単に待遇が悪いからと考えるのが合理的では? 給与水準は米国の獣医の半分らしいですから。都市部で動物病院を開業した方が儲かるから、そちらへ流れるだけのこと。そもそも青森の北里大学獣医学部などは都会の出身者だらけで、地元の入学者も地元に残る人も皆無だとか。地方活性化にさえならない。むしろ今回の今治も、加計の千葉科学大を誘致した銚子市も、加計への巨額の補助金が原因で財政破綻寸前だそうです。
また、そもそも安倍政権は、壊滅状態となっている日本の畜産酪農産業を戦略産業に育てる気があるのか? 産業獣医だけ活性化させても意味はないので。動物分野のライフサイエンスは経済活性化にどう結びつくの? 創薬? 国際特許? だとしても、今治がその拠点になりうるの?
ーー要するに、政策としても疑問だらけなんですよ。

高橋洋一氏と国家戦略特区WGの呆れた規制緩和論(その2)

Posted by fukutyonzoku on 25.2017 政治・経済 0 comments 0 trackback

加計学園問題で論点の一つとなっているのが、獣医師の地域偏在や、産業獣医、公務員獣医が不足しているとされる問題だ。
これが問題でないとは思わないが、加計学園の獣医学部新設の是非を審議した国家戦略特区ワーキンググループ(WG)が、もし「獣医が不足していて増やすべきだ」と結論付けたとしても、農水省が所管する獣医師国家試験の合格者を増やすこととセットでなければ獣医は増えない。しかし、不思議なことに、そこが議論された形跡はない。WGで民間議員が「国家試験で需給調整しているのか」と質問し、農水省が「国家試験は一定水準の知識レベルに達しているかを見るもので、それをクリアしている受験者は全て合格させているので、需給調整はしていない」と回答。それ以上の議論は行われていない。

◾️獣医を増やせば産業獣医不足は解決する?

ペット獣医は余り気味だという。それなら、獣医の全体枠を増やすより公務員獣医等への誘導策を強化すれば解決する話ではないのか。
報道によれば、鳥インフルエンザ研究者である喜田宏教授も「獣医師の数だけ増やしても産業動物や伝染病対策に関わる人は増えない」と指摘。家畜を扱う獣医師の待遇を改善し、人材の偏りを解消するのが問題解決になるとしている。待遇を良くしさえすれば、四国に獣医師養成系の大学がなくても、他地域の同コースを履修して獣医師免許を取得した学生はいくらでもUターン、Iターン就職するはずだ。

◾️四国に獣医学部を設置すれば四国の獣医不足は解消する?

また、獣医師大学不在の四国に獣医学部を新設すれば、四国の獣医不足が解消されるとも限らない。私立獣医科大学協会によると、地方私大でも学力や経済的理由から入学者は大都市圏出身者が多いという。
例えば青森県にある私立の北里大学の1学年の定員は120人で、1.1倍まで認められる枠を使って実際に在学しているのは132人。このうち、青森県出身者は1~2人。青森県内に就職した学生もわずか3人で、うち公務員獣医師になった人は1人だけ。現在も青森県では公務員獣医の欠員状態が続いているという。加計学園の獣医学部が今治市に開学しても、そうなる可能性が高いだろう。
だとすれば、国家戦略特区諮問会議が決めた「獣医学教育の空白地域」という条件は一体何のためだったのか、と首を捻りたくなる。一時的な建設投資需要と学生、教員の消費や住宅投資、住民税、若者や学者が集まることによる有形無形の波及効果を狙っただけの過疎対策事業としか思えない。

◾️そもそもなぜ四国?

さらには、そもそもなぜ四国なのかという点についても疑問がある。四国の大学に獣医学部・学科がないのは確かだが、四国が他の地域に比べて特に獣医が目立って不足しているというわけでもないのだ。
朝日新聞の報道によれば、公務員獣医師の定員を定める20都道県のうち、12道県で定員割れしているというが、不足数は北海道で51人、岐阜県18人、鹿児島県10人、新潟県7人ーーなど。薬剤師や臨床検査技師が獣医師の仕事の一部を肩代わりしている県も複数あるという。
世界に通用するライフサイエンスの一大拠点を作るということなら、酪農畜産農家が最も多く、公務員獣医の不足数も最も多い北海道を優先すべきではないのか。北海道の獣医師養成系大学は国立大の北海道大(定員40人)、帯広畜産大(同)と私立の酪農学園大(同120人)と3大学にあり、合計定員は200人と全国最多の集積を誇る。それでも全国で最も不足しているのだから、新設したり定員を増やすのは北海道を優先すべきだろう。
また、四国にはかねてから地域の農業、畜産業に根ざした研究活動を行っている愛媛大学や香川大学の農学部がある。四国に獣医学部がないのが問題だというのなら、これらの地元国立大学の農学部に獣医学科の設置を認める方が合理的ではないか。両大学には医学部もあるため、学部間で連携して人獣共通感染症の対策も進めやすいはずだ。

◾️法外な加計の「定員160人」

さらには、加計学園が計画している定員160人という数についても疑問の声が多い。全国の既存16大学の獣医師養成系コースの中でも最大規模で、全国の総定員930人の17%強を占める。
毎日新聞によれば、ある獣医系大学教授は「定員160人というのは天文学的な数字ですよ」とコメントしている。既存の獣医学部の定員は最多でも120人で、国公立は30~40人。これまでも10人程度の定員増を求めてきたのに文科省(というより大学設置・大学法人審議会)に跳ね返されてきた大学関係者は多いといい、いきなり定員160人もの新設が認められたことに、獣医教育の関係者はみな衝撃を受けているという。
報道によれば、加計が定員を160人とした算出根拠は、全国の獣医師3万9000人の高齢化による引退を考慮、全体数を維持するためには既存の総定員930人では足りず、その差を埋めるための必要数だという。ライフサイエンスなどの新分野が考慮されているわけでもなければ、全体需要が減っていくとの見通しも無視されているのだ。
 それ以上に問題視されているのは、70人という教員数。教員は既存の大学でさえ足りておらず、まともな人材を集められるのか、と懸念されている。
 日本獣医師会によると、16の既存獣医系学部・学科の専任教員数は計約700人。文科省の認証機関「大学基準協会」が獣医系で定める専任教員数の基準である「68~77人以上が望ましい」を満たしているところは一つもなく、どこも教員確保に苦労しているという。大学認可の権限を持つ文科省が新設や定員増を長年認めてこなかった背景には、この教員不足があるというのに、加計の岡山理科大は、全国の専任教員の1割に当たる人数をそろえようとしているのだ。
教員不足の実情を踏まえれば、教員の奪い合いになる学部新設より、既存の学部・学科の定員増を認める方が合理的だろう。

高橋洋一氏と国家戦略特区WGの呆れた規制緩和論

Posted by fukutyonzoku on 15.2017 政治・経済 2 comments 0 trackback
高橋洋一氏がダイヤモンドオンラインの記事で、マスコミはろくに関連資料も読まずに批判していると難癖をつけていたので、彼が紹介していた2年前(2015年6月8日)の「国家戦略特区ワーキンググループ(WG) ヒアリング」の議事要旨昨年(2016年9月16日)の同議事要旨を読んでみた。
読んで驚いた。八田達夫座長(アジア成長研究所長)、原英史(政策工房社長)、本間正義(東京大大学院農学生命科学研究科教授)、八代尚宏(国際基督教大客員教授)の委員たちの議論があまりに支離滅裂だからだ。こんな粗雑な議論で重要政策が決められていたなんて…と驚きを通り越し、背筋が凍る思いがした。

◾️農水省「新分野も含め獣医師は足りている」/文科省「新分野教育も既存大学で対応できている」

獣医師の需給見通しについては、私立獣医科大学協会が「我が国における獣医師の需給見通し等について」という意見書で、「供給過剰となる可能性がある」と分析し、詳しく論じている。獣医師を所管する農水省も獣医師は十分足りているとしている。


実は、日本の犬、猫等のペット需要は、人口減の影響もあり、2008年をピークに既に減少に転じているのだ。


獣医大学・学部を卒業し、獣医師国家試験に合格して新たに獣医になるのは毎年約1000人。獣医師免許を持つ人は2014年末時点で約3万9千人。高齢でも働く獣医師が多いため、10年前から約8千人増えている。逆にペットや家畜は減っているだから、獣医師はむしろ余る方向にあるのだ。

そもそも日本のような安易な生産や店頭展示販売、通信販売は英国等のペット先進国では禁止されているのだが、日本では一般消費財と同じように大量生産・大量廃棄(殺処分)しており、国際的な動物愛護団体から批判されている。今後、このブリーダー産業のビジネスを優先した大量生産・大量廃棄のサイクルが今後さらに拡大するとは思えないし、政策的にそうすべきでもないことは明らかだろう。
農水省は、国際越境感染症や海外の高リスク家畜伝染病等の対応も、既存の組織で対応できていると説明。文科省は、加計学園が提案しているライフサイエンス(生命科学)等の新分野についても、分野ごとに既存大学の研究の現状を説明し、全ての分野で対応できている、と説明している。
足りないのは獣医や獣医学生ではなく、教員の方なのだ。既存の獣医学系16大学でも、文科省の教員数基準を満たしている大学は一つもないほどだ。

それに対し、本間委員や八代委員は「獣医師の狭い世界でギルドを作り、定員管理して競争者を増やさないようにしている」と何の根拠もデータも示さずに決めつけ、農水省や文科省を既得権益を守りたいだけの「抵抗勢力」であるかの如く罵っている。

◾️挙証責任を文科省に転嫁

そもそも日本の酪農・畜産農家は廃業が相次いでおり、特にチーズやバター等の乳製品は品薄と価格高騰が社会問題となっている。最近では学校給食から牛乳も消えつつある。米国や豪州、フランス等の酪農畜産大国でさえ、補助金に頼って辛うじて経営が成り立っているような状態だ。それでは、安倍政権は補助金を大きく増やして酪農・畜産産業を支援しようとしているのかといえば、そんな意欲は全く見えない。
そのことの是非はともかく、農水省は今後も酪農畜産農家の減少を見込んでおり、それらをケアする産業獣医や公務員獣医の需要が普通に考えれば増えるはずがない。鳥インフルエンザなどの越境感染症研究など新分野への対応は必要かもしれないが、そもそも日本は酪農畜産大国でもなく、むしろ壊滅状態なのに、それについては何の議論もせず、地域的な獣医不足や新分野への対応だけを議論しているのだ。何の根拠も示さずに新分野については日本の医療技術を応用すれば国際的に日本がリードできるとか、金儲けの匂いがする?とでも決めつけているようなのだ。本末転倒ではないか。
もし、そうではなく、産業獣医のライフサイエンス分野には可能性がある、だから日本は戦略的に最先端分野の獣医を育てるべきなのだ、だから新学部を作るべきだ、というのなら、そのことの根拠を示す虚証責任は、一義的には加計学園ら申請者側にある。政府内で言えば、それを押している国家戦略特区の民間議員や事務局の内閣府であろう。「岩盤規制」を打破し、特区で具体的な成果を示したい、加計を特区に指定したいと考えているのは彼らの方だからだ。にもかかわらず、高橋氏と同様、挙証責任を文科省に転嫁している。文科相は諮問会議メンバーでもなけれな特区指定の決定権もない(決定権者は文科相も入っている閣議でも、諮問会議でもなく、安倍首相一人)のに、加計認可の責任だけを負わすという無茶苦茶なことをやっているのだ。まさに、最初から加計の開学ありきとしか思えない議論なのだ。

◾️内閣法違反の疑いが濃厚な加計学園の特区指定

そして、2年前のWG直後の2015年6月30日には、獣医学系養成学部新設を国家戦略特区で認める際クリアすべき条件である「石破4条件」(通称、当時の国家戦略特区担当相は石破茂氏)を含む「日本再興戦略改訂2015」が閣議決定された。
言うまでもなく閣議は政府の最高意思決定機関であり、特区を審議する国家戦略特区諮問会議(議長・安倍首相)は閣議の下位機関。特区法で特区指定の最終決定権を持つと定められた安倍首相も、閣議決定には従わざるを得ない。

前掲の「日本再興戦略改訂2015」の本文(第二部及び第三部)の121㌻に「石破4条件」が記載されているので、引用する。

(1)現在の提案主体による既存の獣医師養成でない構想が具体化し、
(2)ライフサイエンスなどの獣医師が新たに対応すべき分野における具体的な需要が明らかになり、
(3)かつ、既存の大学・学部では対応が困難な場合には、
(4)近年の獣医師の需要の動向も考慮しつつ、全国的見地から本年度内に検討を行う。

((1)~(4)の番号は筆者挿入)

つまり、獣医師養成学部新設を特区で指定するなら、既存の大学・学部では対応が困難な新しい分野であり、その新分野の需要が将来伸びる見通しがあることを明らかにする必要がある。かつ、(4)は「全国的見地」から獣医師需要を勘案せよ、と言っている。⑷について石破氏は「一部の地域のみの利益に資するのではなく、全国的にその利益が及ばなくてはならない」と言っているが、一部地域の需要不足を理由に設置してはいけない、ライフサイエンスなど新分野や不足している職域の全国的需要にかなう計画でないといけない、と言っているのだ。
⑴については、加計学園が一応構想を具体化させているとしても、
⑵の「新たに対応すべき分野における具体的な需要は明らかに」なっていない。⑶の「既存の大学・学部では対応が困難な場合」についても、文科省も農水省も現に対応できているし今後もできる、とWGで説明したが、その説明を覆す根拠を誰も示していない。⑷「近年の獣医師の需要の動向も考慮」すれば、ペット獣医を中心に需要は減っており、今後も減る見通しなので、新設は不要との結論にならなければおかしい。「全国的見地」から検討すれば産業獣医の地域偏在も待遇改善でカバーできるし、農水省もWGでそう説明している。

加計を特区指定したいなら、クリアできていることを安倍首相と諮問会議が示す必要があるが、それが全くできていないのに、安倍首相は指定してしまったのだ。つまり、加計学園の特区指定は閣議で決定されたルールを逸脱しており、内閣の閣議遵守義務を定めた内閣法違反の疑いが濃厚なのだ。
前川喜平・文科省前事務次官は「行政が歪められた」と語ったが、これは何も文科省の言い分が通らなかったことだけを指しているのではない。本来は大学設置の可否を最終決定する大学設置・大学法人審議会(文科相の諮問機関)での審査という手続きを踏まず、さらには政府の最高意思決定機関である閣議で正式決定されたルールまで逸脱して加計学園が特区指定されたことを指しているのだとみられる。つまり、特区指定についても大学設置についても規定のデュープロセスが無視されているのだ。なぜそんな暴挙がまかり通ったかといえば、そこには「総理のご意向」(または周囲の過剰な「忖度」)だろう、と。

◾️獣医師が無制限に増えても国民に害はない?

また、委員たちは「獣医師需給の調整は農水省が担当する国家試験でやればよい。大学の段階で定員調整をするのはおかしい」とまで言っている。法学部がそうだと。正気か?
獣医師養成系は獣医師になるための6年間の専門教育なのだ。教員の人件費程度しかお金がかからない法学・政治学、経済・経営、文学・歴史・哲学等の社会科学系、自然科学でも数学、理論物理等とは違い、獣医師養成は動物を飼育したり医療機器等の設備も必要なため、お金がかかるのだ。私立大の学費をみても、医学部ほどではないが、それでも年間200万円以上、6年間で1200万~1400万円程度となっている。国立大はもちろん私立大にも国からは助成金が交付されており、地元自治体からも出資や補助、中には土地の無償譲渡まで受けているケースもある(今回の加計も)。
「無制限に獣医師が増えたとしても、何ら国民にとって害はない」(本間委員)とも言っているが、国や地方自治体が税金を入れて教育しているのに、獣医師になれず専門性を生かせる就職もできない学生を大量に生み出すことは、税金とマンパワーの浪費にほかならず、国民・納税者にとっては損失である。だからこそ医学部や教育学部等の専門性が高く、殆どの修了生が国家試験を受ける分野は入学段階で需給調整しているのである。むしろ法学部が例外なのだ。
前述の通り法学部はさほどお金がかからない上に、司法試験を受けなくても公務員など法律知識が必要な就職先は少なくないし、仮に就職に直接結びつかなくても社会人として基礎的な法律・政治知識はあるに越したことはない。しかし、獣医学の知識はどうか。WG委員が言うほど社会人一般に広く必要な汎用性のある知識とは到底考えられない。
さらには、法科大学院(ロースクール)を廃止する私立大が相次いでいるように、出口がハッキリ見通せない教育機関には結局、学生が集まらなくなり、運営が危うくなる。倒産すれば、学生にも自治体にも被害が及ぶ。事実、加計学園の大学を巨額の補助金を出して誘致した今回の愛媛県今治市や、2004年に同学園千葉科学大を誘致した千葉県銚子市は、財政破綻寸前とも言われ、地元では大きな問題となっている。
また、仮に大学が破綻した場合、在学生に「そんな大学を選んだ君たちの自己責任だ」と放り出せるのか。教育に企業と同じ自由競争原理を持ち込むことが、そもそも間違っていないか。

◾️教育は規制緩和に馴染むのか

文科省による大学設置の許認可制は「役人が既得権を守ったり天下り先を確保するための岩盤規制なのだから、そんなものはやめて届出制にして原則自由化した方がいい」というのなら、国公立大は民営化し、私学助成金も全廃しないと理屈が通らない。なぜなら、かつての郵政3事業のように中途半端に公共事業体や公的補助を残せば、「民営圧迫」との批判が必ず起こるからだ。つまりは大学のビジネス化だ。特区諮問会議の民間議員らはそうしろと言っているのに等しい。
日本のGDP比の教育予算はただでさえOECD最低の水準で、特に高等教育への配分が少ない。完全にビジネス化されている塾や予備校、習い事などを含めて、家計の過重な教育費負担が少子化の大きな要因ともなっている。厳しい財政事情の中で、政府はなるべく金を使わず、民間資金を上手に取り入れて高等教育や研究開発を活性化させようとの狙いはわからないでもない。しかし、効果的にそれをやるには「選択と集中」が必要だ。最もポテンシャルのある研究機関に研究資金を重点配分することだ。その意味では、京都産業大が今回提案していた京都大や大阪府立大との連携によるiPS細胞の獣医学部分野への応用研究の方がライフサイエンスで世界をリードできる可能性が高いのではないか。国家戦略特区制度は、そもそも地方再生事業でも過疎対策事業でもなく、あくまで国際競争力の強化やそれに資する国際的なビジネス拠点形成が目的なのだ。
また、教育のビジネス化をこれ以上進めれば、教育は益々「金で買うもの」になる。今でさえ日本の大学偏差値と学生の親の所得水準は見事にパラレルだ。大学間の競争が激化すれば、特区民間議員らが言うように、本当に「安くて質の高い教育」が生まれるだろうか。「良いものは高い値段がつく」。それが市場原理だ。市場原理の強い米国の私大を見れば一目瞭然だ。名門で偏差値が高いほど学費も高い。日本の塾や予備校も同じだ。教育への公費負担削減と市場原理導入は、むしろ米国のように普通の家庭では払えないほど大学の学費が高騰する結果となる可能性が高い。
そうなれば、教育機会格差の拡大と所得格差の固定化が益々進むことになるし、学生が卒業後も返済に苦しんでいる貸与奨学金返済負担の問題もさらに深刻化することになる。高等教育への国民のアクセスが悪化し、特区制度の狙いとは逆に日本の国際競争力が劣化していくのではないか。
WG委員や高橋洋一氏は、それでもいいというのだろうか。教育を政治利権や目先の経済活性化の道具にしてはならない。